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中国「ヒップホップ禁止令」のきっかけとは?昨今の中国ヒップホップ事情を総括、専門家が真相を語る

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今週世界中が注目した中国の「ヒップホップ禁止令」はラッパーの不倫問題がきっかけになっていた
2018/01/25 02:06
admin
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1月19日に中国のポータルサイト新浪が、同国内における突然の「ヒップホップ禁止令」を報じた。それにより、数名の人気ラッパーがメディアから姿を消すという事態が発生していることが明らかになった。 

突如起きた中国「ヒップホップ禁止令」 

そのニュースは、すぐにTIMEなど海外メディアによって世界中に拡散され、ここ日本でも有名メディアが複数取り上げたことにより、広く知られることになった。しかし、今回の「ヒップホップ禁止令」に関しては、情報が少ないためか、正確なことがはっきりわからず、なぜ、中国政府はヒップホップを取り締まることを決定したかの詳しい理由はどこかわかりずらく、はっきりしていないという印象を受けるものだった。そのため、block.fmではその真相に迫るために、中国のポップカルチャーに詳しい人物である陳暁夏代氏(@chinshonatsuyo)に取材を行い、昨今の事情を解説してもらった。

  取材を行うまでにわかっていたことは、いくつかある。それは、同国のメディアを管理する国家新聞出版広電総局が、映像やラジオメディアに対し、海外でも最近注目されている注目のヒップホップ新興国である中国シーンを締め付けるような通達を行ったことだ。その後、シーンの有名ラッパーやその音源が配信サイトから突如姿を消すという奇妙な出来事が起こったこと。そして、その結果、一部では政府による体制維持のための「反体制的な雰囲気」を助長するユースカルチャーの取り締まりでは? などという噂も囁かれていたことだ。  

では、そもそもなぜこのようなことが起こってしまったのだろうか? 中国は現在、世界的な経済大国ではあるが、その国家体制はあくまで共産主義国で、日本のような国家体制ではない。事実、中国にはドメスティックなSNSはあるものの、世界中のユーザーが使っているような有名SNSは規制が行われているため、使用できない。もちろんLINEやGmail、YouTubeなどもNGだ。そのため、政府によるユースカルチャーの規制などは比較的予想できる範囲内のことだと考えていた。しかし、この事件のそもそものきっかけは、中国のラッパーが起こした不祥事だということが今回の取材で明らかになった。 

 2017年、中国にヒップホップブーム到来 

そのことについて、まず、順を追って説明していくと、近年の中国における若者の間でのヒップホップ人気の台頭に触れなければならない。中国でのヒップホップ人気には、男性韓流アイドルグループのEXOを脱退した中国メンバー(クリス、タオ)によるヒップホップパフォーマンスの流行がじわじわと中国にも浸透。

その後、現在、アジアのヒップホップ勢を海外に躍進させる役割を担う人気音楽プラットフォームの88risingがサポートする成都出身のHigher Brothersなど耳の早いコアなヒップホップファンから一目置かれるアンダーグランドなラッパーたちの活動や、日本のMCバトルブームの流行に乗り、中国でも2017年ににわかにヒップホップブームが到来しつつあった。

その中で特に若者の間で人気を博していたのが、昨年の6月から9月まで放送されていた「The Rap of China(中国有嘻哈)」というMCバトル番組だ。その放送クールで優勝し、一躍人気ラッパーになったのが、GAIとPG Oneという2人のラッパーたち。とはいえ、国土も広く、13億人以上もの人口が暮らすのが大国、中国だ。そのため、その界隈では確かに番組とラッパーの知名度は高く有名だったが、まだまだ全国的に知られるほどのレベルではなかった。 

 1人のラッパーの不祥事が全てを変えた 

だが、そういった状況を変えるきっかけになったのが、12月末に発覚したPG Oneの中国では全国的な知名度を誇る有名女優「李小璐」との不倫スキャンダル。ちなみにその女優は最近結婚し、幸せな美男美女家族というイメージを売りにしていただけに、不倫発覚後は大騒動になった。またその不倫相手であるほぼ全国的には無名のPG Oneに注目が集まり、気になった中国全土の人々は彼の名前をネット検索。

そうすると今まで一部のコアなヒップホップファンの間でしか知られていなかった不倫と同時期にリリースしていた「Christmas Eve」という曲の存在が広く知られることになってしまった。実はこの曲はこれまでPG One自体が誰でも知っているレベルの人物ではなかったため、そのきわどい歌詞も多くの中国人から見逃されていた。

しかし、その歌詞は、  

“クリスマスは昼は寝て夜は吠える 純白の粉が舞う 巻きながらビビってるやつは休んどけ 俺は出かける前に一服するぜ ビッチはみんな俺ん家来る 尻突き出した小鹿のコスプレ お前に乗って燃料燃やしジングルベル歌う” 

というようにかなりきわどく、ドラッグや女性蔑視で青少年に悪影響を与えるとして、中国共産主義青年団は警告を行った。それを受け入れたPG Oneは、「ブラックミュージックに強い影響を受け、価値観のズレが悪影響を及ぼしたことを反省します。自分の社会への影響と責任を感じ、ファンの皆さんにもいいお手本になるような音楽活動をしていきたいです。現在すべての作品をネットから削除し、今一度確認をしています」と謝罪。 

しかし、ネットユーザーからは「ヒップホップとかブラックカルチャーをお前の下衆な曲とか不倫の言い訳にするな」といういうような不倫批判、「ストリートカルチャーはもともと反対勢力の塊、ストリートを批判するならシェイクスピアも批判するのか?」、「犯罪、ドラッグ、愛のないSEXこそがヒップホップの本質だ」のような援護、「PG One大好き! 待ってるから!」のような人気復活を願う声など、人によって全くスタンスが違う様々なコメントで炎上騒ぎになった。


 

姿を消したラッパーたち 

その結果、国家新聞出版広電総局(SAPPRFT)が、「品悪低俗悪徳性的なタレントは起用しないこと。またスキャンダルや道徳に反するタレントも起用しないこと。特に刺青、ヒップホップ、アンダーグランド文化などの番組への起用はしないこと」という「ヒップホップ禁止令」をメディアに通達。そのせいで、直接今回の不祥事とは関係のないはずの先述のGAIは出演シーンをカット、「The Rap of China」の女性チャンピオンVAVAは出演したバラエティー番組で顔を隠されたり、ラッパー風の格好した男性のブリンブリンにモザイクがかけられたり、ヒップホップに関するものがメディアから締め出される事態になった。これらは急遽、各番組側が通達に対応した結果だ。 

2017年は中国におけるヒップホップブーム元年でもあったが、このPG Oneの不祥事に端をなす「ヒップホップ禁止令」により、2018年の経済損失額は2億元(約34億2853万円)にもなるという。また中国は2月に旧正月を控えており、各局はまさに正月番組の企画の真っ最中。しかし、現在の状況を考えると、正月番組でラッパーたちの姿を目撃できる可能性は低いと見られている。そして、中国にラッパーブームを起こした「The Rap of China(中国有嘻哈)」は、かねてから2018年にシーズン2開始が予定されていたが、それに関する続報はまだ一切発表されていない。

この中国を突如襲ったヒップホップ禁止令は、事情をよく知らないまま見ると、中国政府による100%横暴なヒップホップカルチャーの締め付けとして捉えてしまうかもしれない。そのため「国家新聞出版広電総局の非道ぶりは、中国のラッパーたちを殺すつもりなのか。前時代に逆戻りだよ」、「高い文化レベルにあるはずの我が国の政府がなぜこんな子供じみたことができるんだ?」との批判の声が上がる一方で、締め付けられたヒップホップファンの怒りの矛先は結婚しているのに不倫した李小璐にも向いている。「せっかく盛り上がってきたカルチャーが1人の女優の不祥事のせいで台無しなった」というのが1番多い意見で、彼女は今、盛大にバッシングを受けている。 

ちなみにPG Oneは今回、有名女優との不倫がきっかけで、反体制的なラップが広く世に知られ、政府にまでマークされるハメになったが、彼の不祥事は今回が初めてではない。これまでにも彼は、乳がんで亡くなった中国の歌手をディスるラップやSexについてのラップなどで炎上騒ぎを起こしている。


このあたりはアメリカの若手ラッパーたちやお騒がせYouTuberたちと同じように世間の注目を集めるためにセンセーショナルなインモラル行為を続ける姿勢と共通する部分だ。そういう意味ではユースカルチャーにおけるトレンドはインターネットを通じてタイムレスに広がり、グローバル化していることを実感できる。それはネット規制がある中国でも同じことだ。(実際に中国でも本来政府によって規制されているはずのSNSなどを利用する方法は存在する) 

予想だにしなかった現実に直面する中国ヒップホップ 

このような不祥事がきっかけになり、中国のヒップホップカルチャーは、多くの国内外のメディアが報じたように確かに規制されてしまった。ただ、もし同じような事がアメリカで起こった場合は、どうだろうか? おそらく当事者だけが「禊」を行うだけで、ヒップホップに関わる全てがメディアから締め出されるようなことは起こり得ないだろう。

 90年代の日本には「不倫は文化だ」という有名な世間を騒がせたセリフがあった。あれから20年以上が経った今、海の向こうでは不倫が文化を殺したとも言えるような状況に陥っている。冷静に考え直してみても今回の中国政府の対応は行き過ぎたものだと思う。 

この記事執筆にあたり、もう1人、上海を拠点にDJやイベントオーガナイザーとして活動する人物に話を聞いてみた。その人物曰く、最近の中国では大きな流れとしてクラブ開業,フェス開催への許可が難しくなっており、実際に上海ではクラブの開店やフェスの開催が中止に追い込まれるケースも決して少なくはないそうだ。また「以前までとは違い厳格化,取り締まりが強化されている。国家レベルで動いている事は間違いない」と最後に語ってくれた。 

今回の「ヒップホップ禁止令」は、奇しくも今年新年早々、日本中を騒がせたいくつかの不祥事に関する要素を全て含んでいるように感じる。本来なら2018年は、中国における輝かしい「ヒップホップブーム2年目」になるはずだった。しかし、そのコミュニティに関わる誰もが現在、予想だにしなかった厳しすぎる現実に直面している。

参考:

http://supchina.com/2018/01/19/china-bans-tattoos-and-hip-hop-culture-from-tv-shows/

http://supchina.com/2018/01/04/pg-one-fire-lyrics-glorifying-drugs-sex-pursuit-wealth/

http://time.com/5112061/china-hip-hop-ban-tattoos-television/

http://www.wenxuecity.com/news/2018/01/02/6865458.html

http://ent.sina.com.cn/tv/zy/2018-01-19/doc-ifyquptv7935320.shtml

Written by Jun Fukunaga

Photo: boom-asia.com

取材協力: 陳暁夏代(@chinshonatsuyo

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