サンプリングネタとともに振り返る、フジロック出演The Chemical Brothersの人気曲

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いよいよ今週末からスタートするフジロック2019。初日のヘッドライナーを務めるのはご存知、The Chemical Brothersだ。1989年のUKレイヴカルチャー初期から活動を開始し、90年代にはビッグビートムーブメントの立役者となり、日本でも高い人気を獲得した彼ら。それ以降もダンスミュージックシーンの最前線に立ち続け、今年4月にはファン待望の最新アルバム『No Geography』をリリースしたこともあり、フジロックでの再来日を楽しみにしていたというファンは多いことだろう。
The Dust Brothersという初期の活動名義の頃から、プロデューサー以外にも深い音楽知識を武器に伝説のクラブ「The Haçienda」でDJを行なっていた2人。それだけにThe Chemical Brothersの代表曲、名曲といわれる数々の楽曲にはサンプリングを駆使した楽曲が多いことも知られている。そして、活動30周年を迎えた先述の最新アルバムでもその手法は健在。それだけに卓越したサンプリングセンスは彼らの音楽を語る上で外せないものだといえる。
そこで今回は、The Chemical Brothersの名曲をフジロック前にもう一度サンプリングネタとともにふりかえることで、当日のパフォーマンスへの期待をさらに膨らませてみたい。
Block Rockin' Beats(『Dig Your Own Hole』収録) - 有名なベースラインには2つの元ネタ候補説が!?
UKクラブミュージックシーンにおいても、The Prodigy、Roni Size、Autechre、The Orbなど今では大御所と呼ばれるような大物アーティストが数多くヒットアルバムをリリースした1997年。その年にリリースされたのがThe Chemical Brothersの2ndアルバム『Dig Your Own Hole』。「Block Rockin' Beats」は、同アルバムのリード曲であり、彼らの代表曲、名曲といえば、すぐに頭に名前が浮かぶファンは多いことだろう。
そんな名曲ではメインのブレイクビーツは、Bernard Purdie「Changes」、有名な声ネタはSchoolly D「Gucci Again」が使われているが、最も印象的なベースラインは、UKのポストパンクバンド、23 Skidoo「Coup」がサンプリングされているという意見とアメリカのフュージョンバンド、The Crusaders「The Well's Gone Dry」がサンプリングされているという意見に分かれていることは興味深い。個人的な意見だと「Coup」説を支持したいなと思うもループの切り出し方次第では「The Well's Gone Dry」なのかなとも思う。気になった人は2曲を是非聴き比べてみてほしい。
Setting Sun(『Dig Your Own Hole』収録) - Noel Gallagherが歌うリリックは実はOasisのデモからのものだった!?
UKを代表するロックバンドOasisのNoel Gallagherを迎えてのロッキンビッグビート「Setting Sun」も『Dig Your Own Hole』収録で、Pitchforkは、90年代のベスト曲200に選出。またThe Guardianは、Underworld「Born Slippy .NUXX」と並ぶ”90年代を代表する体感型のヒット曲”と称している。それだけにその多幸感たるやという感じだが、Noel Gallagherとのコラボ曲という面もあって、ロックとクラブの垣根を取り払った名曲であり、The Beatlesのトリッピーなサイケチューン「Tomorrow Never Knows」の影響を色濃く受けた曲だということもファンの間ではよく知られている。
同曲のリリック、メロディーは、Oasisの未発表デモ曲「Comin' On Strong」がベースになっているといわれている。デモが録音されたのは1992年〜1993年で、この曲もまた「Tomorrow Never Knows」の影響を受けて制作されたものだそうだ。ちなみにデモ曲では、Noel Gallagherではなく、バンドのボーカルだった弟のLiam Gallagherがマイクを握っている。
Out of Control(『Surrender』 収録)- シンセウェーヴ風の80sベースラインが印象的な2大ロックスター共演曲
今年で発売から20周年を迎えた名盤『Surrender』に収録された「Out of Control」では地元イギリスを代表するロックスターが客演に迎えられており、New Orderの Bernard Sumnerがヴォーカルパート、Primal ScreamのBobby Gillespieがコーラスパートに参加。
同曲では、70年代〜80年代にかけて活躍したプロデューサー、ソングライターのBobby Orlandoによる1982年の「She Has a Way」に影響を受けたベースラインを採用。これがサンプリングの元ネタだと考えれられている。またシングル盤に収録されたリミックスは、The Chemical Brothersと同じく「The Haçienda」にルーツを持つ、レジェンドDJ/プロデューサーのSashaが手がけている。
Star Guitar (『Come With Us』 収録)- リフレインされる印象的なフレーズの元ネタはDavid Bowie
UKチャート、USチャートでも高順位を獲得し、セールス的にも成功を収めたThe Chemical Brothersの代表曲である「Star Guitar」。電車の車窓から見える風景にあわせて疾走していくMVでもよく知られる同曲は、2002年にリリースされた『Come With Us』に収録されたアルバム中屈指の名曲としても有名だ。
イントロで聴けるフレーズは、70年代に結成されたElectronic Systemというベルギーのシンセグループによる「Flight to Venus」からのサンプリング。同曲が収録された1977年のアルバム『Disco Machine』は、Moogシンセサイザーを駆使して制作されている。またStar Guitarのメインとなる多幸感を聴き手に与えるリフはDavid Bowieが1972年にリリースした名盤「The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders From Mars」に収録されている「Starman」のギターフレーズをサンプリングしたもの。トラックタイトルもそれにインスパイアされたものになっていることに注目だ。
Galvanize (『Push the Button』収録)- Q-Tipを客演に迎えた曲のサンプルはエキゾチックなモロッコ音楽が元ネタ
90年代の東海岸ヒップホップシーンを代表するA Tribe Called Questの中心人物、Q-Tipを客演に迎えた「Galvanize」は、今年のグラストンベリーフェスでの彼らのセットでも披露され、その際には原曲にはない強烈なアシッドベースラインが多くの観客を盛り上げた。現在、その様子はBBC MusicのYouTubeチャンネルで視聴できるので、フジロックの予習としてマストでチェックしておきたいところ。
「Galvanize」といえば、曲のテンポはややゆったりめ、ビートも激しいブレイクビーツといういかにも”ケミカル”な曲ではないものの、エキゾチックな中近東音楽風のフレーズが強い存在感を放つ名曲のひとつだ。サンプリングの元ネタはモロッコのシンガー、Najat Aatabouによる「Hadi Kedba Bayna」。このサンプリングにより、Najat Aatabouと「Hadi Kedba Bayna」の存在が知られることになった。サンプリング自体はチョップしたり、いじったりしない、シンプルな”モロ使い”。だが、その潔さも個人的には痛快だと思う。
Swoon(『Further』収録) - 自らあの楽曲のフレーズを再利用!?
2010年にリリースされたアルバム『Further』のリード曲で、リリース前から彼らのDJセットでは度々プレイされてきたのがこの「Swoon」だ。
同曲では、ほかの曲のように別のアーティストからのサンプリングが目立つわけではないが、代わりにThe Flaming Lipsを客演に迎えた自らの楽曲「Nude Night」で使用されたフレーズと似たようなアルペジオフレーズがイントロで使われていると指摘されている。そのため、これはサンプリングというよりは、The Chemical Brothersのプリセット的なものが使用されているといった類のものかもしれない。ちなみに「Nude Night」は、2003年にリリースされたEP「The Golden Path」に収録されている。
Eve of Destruction(『No Geography』収録)- 日本のCapsuleもサンプリングしたあのクラシックをサンプリング
最新アルバム『No Geography』に収録されたアルバムのリード曲「Eve of Destruction」。日本では、ゆるふわギャングのNENEが参加したことでも話題になったため、フジロックでも是非、苗場で”ぶっ壊したい何もかも”という日本語詞の部分を生で聴いてみたいと思う人は多いことだろう。また客演しているシンガーのAuroraがヒーローとなり、敵と戦うといった演出が行われた、日本の特撮ヒーローものを彷彿とさせるMVも必見だ。こちらも「Galvanize」と同じく、グラストンベリーで披露され、同じくBBC MusicのYouTubeチャンネルではその様子を確認できる動画が公開されている。
サンプリングネタとして使われたのは、Todd Terryのアシッドハウスクラシック「Weekend」であることは以前、公開されたDummy Magazineのインタビューでも触れられているが、そもそも「Weekend」の元ネタは、1983年の大ヒットダンスクラシック、Class Actionの「Weekend」。同曲はダンクラとしての人気はもちろんのこと、サンプリングネタとしても古くから人気の曲で2010年代に入っても、ジューク/フットワークのカリスマだった故DJ Rashad「Well Well Well」、人気EDMプロデューサーのDon Diablo「Tonight」などでサンプリングネタとして使用。また日本ではCapsuleが「Striker」でサンプリングしている。
関連記事:【レビュー】The Chemical Brothers『No Geography』、レイヴ要素に見る”原点回帰”
このようにサンプリングを駆使して数々の名曲を作り上げてきたThe Chemical Brothers。フジロック2019では、7月26日(金)21時よりGREEN STAGEにてライヴがスタート。果たして当日披露されるのはどの名曲なのか? 見逃せないライヴパフォーマンスになりそうだ。
written by Jun Fukunaga
photo: The Chemical Brothers Facebook