【特別対談】m-flo ☆Taku Takahashi × CAMPFIRE 家入一真、「アーティストの在り方をアップデートしたい」

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クラウドファンディングプラットフォーム「CAMPFIRE(キャンプファイヤー)」に、m-flo ☆Taku Takahashiが顧問として就任することが決定した。「CAMPFIRE」の機能を最大限活用しながらも、実際に音楽シーンを牽引し続けているアーティストの知見を還元し、これまでのアーティストの在り方を「アップデート」していく。
顧問就任にあたって、株式会社CAMPFIRE 代表取締役社長の家入一真と☆Taku Takahashiの対談が実現。今回のタッグに向けた想いや共に目指す世界について語ってもらった。
「どうやったら音楽業界に寄り添えるプラットフォームになるんだろう」
ー今回お二人がタッグを組むことになったきっかけというのは?
☆Taku Takahashi(以下、T):僕がメッセージ送ったこと?
家入一真(以下、家):そうそう、LINEですごい熱いメッセージをいただいて。
T:せっかくのいいプラットフォームだからアーティストにもたくさん使って欲しいんだけど、CAMPFIREの理念がアーティストにちゃんと伝わってないような気がして。アーティストって、考えはリベラルかもしれないけど、何か新しいことを始めたりチャレンジすることに関しては割と保守的な人もいたりするんだよね。だから「アーティストにとっては、ここがマイナスなんだよ」みたいなのを長文でダーッと送って。ごめんなさい(笑)。
家:いやいや、すごく参考になりました。
T:それで家入さんに会いましょうよって、呼ばれて。
家:本当にありがたいことです。
T:もともとは10年くらい前からのお付き合いなんですよね。で、やっぱりここ最近の勢いがすごいなって思ってて。
家:いやいや…。僕CAMPFIRE立ち上げてから、少し離れて2年前にここに戻ってきたんです。
当時のクラウドファンディングって、大きなお金を集めるプロジェクトばかりが目立ってて。あと、各社成功率を上げようと頑張っていた。これはどういうことかと言うと、成功率を上げるために、明らかに成功しなさそうなプロジェクトはそもそも承認しないっていうやり方をしてたんですよね。
そもそもクラウドファンディングの本質ってそうだったっけ?ということを再度問い直すために戻ってきたんです。「小さな火を灯す」って言い方をしてるんですけど。そもそもプロジェクトがサクセスしそうか?っていうことをジャッジするのは僕らのやることではない。それができると思うこと自体がすごくおこがましいことだし、それはプラットフォームとして正しい態度なのか?っていうのを、考え直していこうということで戻ってきた。
T:その想い、自分の理想と共に戻ってきてみて、実際はどうですか?
家:正直、僕らがやっている仕組みとしてのクラウドファンディングやファンクラブは全然まだまだだと思っていて。
今までは「大手」と呼ばれる会社さんが、伸びていく経済の中で出た利益を再分配する形で、アーティストやデザイナー、クリエイターの卵と呼ばれる人たちを見つけて育成するっていう仕組みが循環してた。でも市場環境が変わって今までみたいに利益が出ない構造になったときに、それまで面倒見てきたアーティストの卵とか、それに関わる周辺の人たちに、途端にお金が回って行かなくなってしまった。
クラウドファンディングで全て解決するなんて思わないし、これで一発逆転、全部上手くいきます、みたいなことも言うつもりもない。ただ、そういった方々に使ってもらえる仕組みを作っていかないと、今まであったシステムからこぼれ落ちていく人たちが生きていけない世界になってしまう、という気持ちが根っこにある。それを信じてクラウドファンディングをやってきてるんですけど、これが最適な答えなのか?って常に疑い続けたいし、疑っている。なので全然理想通りではないな、という感じです。
T:そもそもクラウドファンディングがアーティスト、クリエイター、演者とパートナーシップを組むものだから当然ですけど、今お話しされた問題構造が、今の音楽業界そのものと全く同じお話だと思うんですよ。音楽業界だけじゃなく、クリエイティブの業界なら全て当てはまる話かもしれない。ひょっとしたら何か新しいものを作りたいスタートアップとかも当てはまる話かもしれないし。
「小さな火を灯す」っていうキーワードを理想として抱えながらも、実際には社会的にすごい難しいことにチャレンジしてるなっていつも思うんですよね。
家:果たして僕らはプラットフォーマーとして、それぞれの業態とちゃんと寄り添えてるのかって自問自答はいつもある。
それこそ文言一つとっても「こういう言い方をしてしまうとアーティストはすごく警戒してしまう、嫌悪感を持つ」っていうようなことがたくさんあるはずなんですよ。もちろんCAMPFIREには音楽をずっとやってきているスタッフもいるので、なるべく自分たちでも「どうやったら音楽業界に寄り添っていけるのか」ってことを考えていきたいんですけど、それでも見えてない部分もたくさんある。仕組みとしてちゃんと寄り添えているのか?っていうのもありますし。
T:その理想をどう実現していくか向き合おうとしていたから、僕、お節介かもしれないけど、「家入さん、あのね、それねアーティストにはこう見えちゃいますよ」ってめっちゃ話したっていう。
家:それで、一緒にやろうってことになったんです。
「お金がなめらかに流通する仕組みを作りたい」
ー「お金が回る」という話がありましたが、最近話題になった「RTで総額1億円」のニュースに対する家入さんの発言がとても印象的でした。
家:批判はしてないんですが、自分が感じた「モヤモヤ」を言語化しなきゃなと思ったんですよね。マーケティンングの手法はどんどん変わっていくものだし、良い悪いじゃないんですけど、すごい象徴的な出来事だったと思って。
だから、「もし同様にモヤモヤしたり、違和感を感じたりしたら、その違和感を大事にしてね」って話はしました。
T:僕もTwitterのインプレッションとRTの数と、社会のニュースになる費用対効果が先に見えちゃった。「これ一番安い広告になるんじゃないか」って見えちゃって。もうちょっと夢みさせてよ、ってね(笑)。
家:僕らCAMPFIREは、10万円でフリーペーパーを作りたいとか、30万円で個展を開きたいとか、100万円でライブしたいとか、そういうものの積み重ねですけど、累計100億ぐらいの総流通額になってきてるんです。でも一部のお金持ちがずーっと100億円をばら撒き続けるかっていうと、限界があると思うんですよ。
やっぱり持続する仕組みを作り上げることの方が、個人的に美しいと思っていて。
T:まぁ、本当に続けられるかもしれない。気になった時だけやれば、続け方なんて色々あるから。ただ世の中を見ていると、それをいいことだと思う人と、悪いことだと思ったり、不満を感じたり、怒ったりする人もいる。大人数になったらどうしてもついてきちゃうものとはいえ、ピュアなCM効果もあったけれどネガティブな反応も強かったのがネックだなと。せっかくポジティブなことでも、負の感情の連鎖になると嫌だなって。
家:負の感情とか怒りの感情はどんどん蔓延していきますよね。
みんなRTしてたんだし、それ自体をどうのこうの言うつもりはないんですけど。ただ社内のSlackでは「お金がなめらかに流通する世の中を作ろうとしている僕らは、別にRTしちゃダメということはなくて、こういうお金をめぐる新しい動きや仕組みが出てきた時に、一拍おいて、それに飛び乗るかどうか一旦自分の頭で考えて、それでも乗るんだったら乗ってもいいし。ただ、いいキッカケだから、考えよう。」って話はしました。
T:僕らみたいなプラットフォームを作ったり、エンタメしてる側は、それに踊らされてちゃダメだとは思うよね。
家:あーなるほど。
T:「お金がなめらかに流通する世の中」って言ってたけど、まぁ実際お金は循環した方がいいからね。それこそ金持ちがお金貯めてて市場にお金が出てきてないから、日本が苦しいっていう状況だから。
家:だって、国民の預貯金の額でいうと、世界的に見ても未だに世界1位とか2位とかなんですよね。でもその8割ぐらいは高齢者の方々が銀行口座においていて、天国まで持って行こうとしている(笑)。それがもうちょっと巡るといいなっていう風には思いますね。
T:お金が流れないから、アーティスト、クリエイター、スタートアップの人たちは可能性があってもいろんなことができない。しかも同時に、アーティストの数は圧倒的に増えてるんですよ。プロかアマチュアかは別として、表現者自体の数は昔より数倍増えている。そう考えると昔ながらのプロモーションや昔ながらのリリース方法はもう難しくなってるんですよね。
だから今は、自分がやりたいことを支持してくれる人達といかに繋がるかっていうのが大事な時代で、だからこそクラウドファンディングって正しいものだと思うんです。
「持続的に応援してくれる人がいれば、自由に表現を続けられる」
ー自分を応援してくれる人と繋がるためにも、アーティストにクラウドファンディングをどんどん使って欲しい?
T:うん。いいアーティストがいっぱいいるんだから、いいアーティストにもっと成功して欲しいって思う。
ただ、今求められてるのって「持続性」。普通の目標達成型のクラウドファンディングだと、達成した後にリセットされちゃう。どうやってその点を線にするかっていうのはすごく難しい課題である中、常に購読制でやれるサービスも始まったよって話も聞いてて。
家:そうなんです。例えば海外だと「Kickstarter」っていうクラウドファンディングより、「Patreon」っていうサービスが今すごく伸びていて。これは月額課金型のクリエイター支援なんですね。音楽、ゲーム製作者、イラストレーターとか、様々なジャンルのクリエイターへの支援。
要はクラウドファンディングって2ヶ月とかの短期間で熱量を高めて数百万、数千万集めるには向いてるプラットフォームなんですけど、プロジェクトベースでそこまで資金を必要としないクリエイターの方々には向いてないんですよね。
極端なこと言うと、例えば「月3万入ってきたらバイトのシフト一個減らして、制作活動に時間当てられるんだけどな」とか、「月500円×100人から5万円入ってきたら、それで画材買って絵を描き続けたい」とか、毎月安定的にお金が入ってくることでクリエイターの方って継続していけるんです。それをやっていく中で、例えば大作を作ることになって100万円が必要になった。そうしたらそのときにクラウドファンディングやる、とかはアリじゃないですか。
僕らも「CAMPFIREファンクラブ」っていう名前で立ち上げて、今すごい伸びてるんです。
T:クラウドファンディングは、やっぱり達成しなかった時が怖いんですよ。
家:本当にそうですよねー。それはみなさんおっしゃいます。
T:もし達成しなかったら、アーティストのブランドイメージを傷つけかねないから。
もう1つは、若手が「もう少しで達成します!よろしくお願いします!」みたいなのはアリなんだけど、ベテランアーティストは、クラウドファンディングするなら工夫が必要じゃないですか。頭を下げて「お金ないんです、お願いします!」というよりも、ファンが一緒に楽しくなるような工夫が。
家:うんうん。確かに。
T:ひょっとしたらこれが未来のレーベルの形かもしれないよね。
家:僕はもともと絵を描く人間だったので、たまに大学で授業をさせてもらうことがあって。個人が声をあげてマネタイズできる仕組みがあるんだから、もっと使って欲しいという話を事例も含めて講義するんですけど、結構な数の生徒が「作品をお金に変えるって良くないことですよね」とか「CAMPFIREもBASEもnoteも知りませんでした」とか言うんです。えっそうなの!?って。
T:若いのに…。
家:うん。自分は作品を作るクリエイターであり、それを売るとかマネタイズするとか、そのためのサービスが出てきてるとか何も知らないまま、学んでいる。
T:メジャーのスキームが今の時代に当てはまらなくなってきたからこそ、CAMPFIREだったりBASEを使って逆に自由な表現をして、100万枚は売れないかもしれないけど、年1000人っていうサポーターがつく可能性があって、そこでずっと持続することができる。しかも自分が好きなもので、妥協しなくていい状況で自由に表現ができるかもしれないっていうのは、悪じゃないですよね。むしろ善だと思うんだけどな。
「その人の作り上げる世界観に参加費払う感覚。気持ちよく騙されたい」
家:綺麗事っぽく聞こえるかもしれないけど、僕も40代になってきて、上の世代から受け継いだバトンを、どう下の世代につないでいくかっていうのをすごい考えるようになってきたんですよ。上の世代もそのまた上の世代からバトンを受け取っているわけだし、僕らが受け取ったバトンをどう下に繋ぐかということを、年齢的にも考えるようになってきて。
でも考えたら、音楽ってそれをずっと延々とやってきてますよね。☆Takuさんとかもそういうことやってますよね?
T:そうね。音楽ってそういうことが当たり前なのかも。例えば普通の会社だと新人として入社して、だんだん昇進してっていう流れですけど、アーティストの場合は、新人でもベテランと同じ舞台で戦わないといけない。そういう世界だから切磋琢磨な部分もあるんだけど、先輩アーティストが若いアーティストに力をくれたり、アドバイスをくれたりすることが普通に行われている。
家:確かに。
T:もちろんそうじゃないアーティストもいますよ。ただ僕自身として昔から変わってないこととしたら、単純にずっと刺激ジャンキー。例えば若い面白い子がいたら近くで聴きたいし。楽しいじゃないですか。
家入さんが出資するときも、面白いと思ったから出資するわけでしょ。
家: むしろ騙されたいみたいな感覚ある。気持ちよく騙されるみたいな(笑)。ある意味参加費払ってるみたいな感覚なんですよね。その人が作ろうとしてる世界への参加費を払ってるぐらいの感覚。
T:アーティストのファンも同じかも。この人には騙されてもいいや、みたいな。
「魔法を起こすのはアーティスト自身」
ーアーティストが「よし使ってみよう」ってなった時に、継続してファンを獲得していくための考え方やヒントってありますか?
家:僕らプラットフォーマーは場の提供のみに徹するのが一番美しい形だなとは思いつつも、それだけだとまだまだ広まらないので、アフターケアや導入のサポートをやっています。特に、対アーティストや対レーベルは、ニーズに合わせてスタッフが企画から入ることもしばしばです。とはいえ、アーティストご自身が「自分の声・言葉」で届けようと努力することも大事だと思います。
T:プラットフォームを作る人たちは、プラットフォームを作るまでが本来の責任だと思うんですよ。でもCAMPFIREはそのアフターケアもすごくしてくれるタイプだと思う。だけど僕は、クリエイター自身が「常にチェックしてもらえる」キッカケを作り続けるってことが、エンタメをやる人、プロである責任なんじゃないかなって思うんですよ。やりたくないことはやらなくてもいいんだけど、常に何かをやり続ける、何か起こってるように見せるのは表現者としての責務だと思っていて、このサービスを使う場合はそれが重要なんじゃないかな。
ー実際にアーティストでファンクラブが成功してる、伸びてきてるっていう事例はありますか?
家:シュノーケルというバンドは、100人限定のファンクラブを1年ちょっと前から継続してくれてて、未発表音源などを毎月お届けしてくれています。
https://camp-fire.jp/projects/view/51036
T:100以上にはしない?
家:そうです、そういう「やり方」が面白い。人数を限定して熱量を高めていくことで、その次に繋げていくというか。
ただ、100人満員になって枠を増やして欲しいという要望が多かったため、今は限定数を設けないでファンクラブを継続してくれています。
T:それはまだメジャーで音楽が盛んだった時代、ライブをあえてちっちゃいハコにして、チケット買えなかったっていう風にするのと一緒ですね。
家:あと、HONG¥O.JPというHIPHOPグループは毎月ファンイベントを立ち上げてくれていて、その度に単発のプロジェクトを立ち上げる形でCAMPFIREを使ってくれています。新しい形ですよね。もう5ヶ月連続でプロジェクトをやってくれています。
https://camp-fire.jp/projects/view/113339
T:やっぱり、クリエイターが色々考えてアイデアを出していくっていうことがすごく重要なんじゃないかな。これは決して「救い」ではないんだよっていう。これは救いではなくて、新しい選択肢を提示されてるんだよっていう風にわかってもらわないと。
家:本当にそうですね。そこは僕らも気をつけなきゃいけないことなんですけど、魔法のツールだと思われてしまうこともあって。魔法のツールではありませんってことをわかってもらわないと。その中でも僕たちがやれることは、もちろん最大限寄り添っていきたいと思いますけど。
T:魔法を起こすのはアーティストだからね。起こすべきなのは。
家:いい言葉。魔法かけてほしいね。
このタッグによって、アーティスト、クリエイターが活動を続けるための選択肢は間違いなく広がるだろう。アーティストの「在り方」がどう変化し、どんな「魔法」を見せてくれる未来が訪れるのか。
block.fmもCAMPFIREと連携して様々な取り組みを企画中。プラットフォームとメディアの力の掛け合わせで、プロジェクトの最大化を目指していく。block.fmはアーティストとファンとを繋ぐ「架け橋」としての役割を担い、新たな音楽ムーブメントを発信していく予定だ。
written by 編集部