1億以上の価値を示した8人の勇姿。BAD HOPが横浜アリーナで無観客ライヴを生配信

1億円以上と言われる赤字を抱えながら、ネガティヴな側面を感じさせない力強いパフォーマンスを振り返る。
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2020.03.04 08:30

3月1日(日)、BAD HOPが横浜アリーナで「BAD HOP WORLD 2020」を敢行。無観客、YouTubeによる配信で注目を集めた。





BAD HOPが横浜アリーナで無観客ライヴを配信。 3万人がリアルタイム視聴したステージを振り返る


BAD HOPが横浜アリーナで「BAD HOP WORLD 2020」の無観客ライヴ配信を行った。知っての通り、新型コロナウィルスの影響で政府が民間に対して2週間程度、イベントの自粛を要請。それを受けて、一度は「BAD HOP WORLD 2020」は中止になる予定だった。しかしBAD HOPメンバーはスタッフ、関係者と協議を重ね、最終的には無観客でやるという決断を下した。「コケ方が大事。このままやめるだけでは俺たちらしくない」と、ライヴ中に語り、生配信ライヴを行うことでの負債額は本人たちいわく1億円とちょっと。普通にキャンセルしてたら3000万〜4000万円の赤字で済んだところ、それでも「やることに意味があるから決断した」とステージ上でその思いを吐露している。




「BAD HOP WORLD」を目指す宇宙の旅路


新たな人類の居住地「BAD HOP WORLD」を目指す宇宙旅行という設定を活かした、作り込まれたセット、演出。約1万7000人収容の横浜アリーナふさわしい壮大な舞台の前には、残念ながら観客はいない。異様な雰囲気の中で「BAD HOP WORLD 2020」は幕をあけた。巨大なモニターにはAIが映し出され、宇宙の旅のナビゲートをしてくれるようだ。YZERRが「Pablowがステージの画を書いてみんなで作った」というステージのヴィジュアルは設定同様に宇宙船をモチーフにしており、LEDが各所に埋め込まれ、巨大モニターと相まってSF感ほとばしるデザインである。




これから宇宙の旅へと飛び立つ1曲目は近作『Lift Off』収録のMurda Beatzプロデュース「Jet」。G-k.i.d.、Yellow Pato、Tiji Jojoが先陣を切り、開幕にふさわしいパフォーマンスとバイブスの高さを見せた。Metro Boominプロデュースによる「Double Up」、Mustardがプロデュースした「Poppin」と続く。「盛り上がってますか横浜アリーナ」と鼓舞するも、満杯で埋め尽くされるはずだったオーディエンスはそこにはいない。




やるせない表情を浮かべながら、それでも変わらないスタンスでMCする姿に胸を打たれる。「I Feel Like Goku」、「Handz Up」と定番の人気曲を披露し、再び、『Lift Off』からMike Will Made-Itプロデュースの「ICHIMANYEN」、暗転してWheezyプロデュースの「Dead Coaster」がスタート。ここまでは現在進行形のBAD HOPを見せる挨拶代わりといった感じ。ここから「YAGI」、「Walking Dead」とさらにその勢いを増していく。Benjazzyの「2018」、「WAR」、Vingo、Bark、G-k.i.dによる「In The Mode」、「REDRUM」、間にDJ CHARI & DJ TATSUKIプロデュースの「Hiiispace」を挟んで、Tiji Jojo「PLAYER 1」とメンバーそれぞれの名義の楽曲も満遍なく織り込んだセットだ。





「成し遂げたいことがあるなら、お金は関係ない」


二段構造のステージ設計により、横並びではなく8人それぞれがバランスよく配置されているのが、オーディエンスライク。カメラのアングルやスイッチングも、これは生で観たかったと思わせる臨場感が画面越しに伝わってくる。「Super Car」、「Asian Doll」と再びポッセ曲をドロップ。暗転したのちに『Rich or Die』の「Intro」でYZERRのソロパートが幕を開ける。Barkとの「Overnight」、「No New Friends」を経て、YZERRがこの横浜アリーナへの憧れや思いを語った。内容は、みやーんZZさんの書き起こし記事に詳細が記されているので参照してほしい。


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miyarnZZ Labo:YZERR BAD HOP横浜アリーナ無観客公演スピーチ書き起こし


念願成就も半ばに悔しさを滲ませたYZERR。しかしその目に曇りはない。すでに決意固く次を見据えている表情だった。


「みんなはどうですか? 俺はこの国で本気でヒップホップを流行らせたい。1億円という額はデカイけど、自分が成し遂げたいことがあったら、お金は関係ない」




そう真っ直ぐに言い放つYZERRの言葉に僕はアタマを抱えたし、胸が痛くなった。これはかつて18歳だったYZERRが横浜アリーナでのライヴを目にして憧れを抱いた自分に重ね、若い世代へ向けられたメッセージであるが、いわゆる年齢的なおっさんカテゴリに半身浴し始めている僕にとっても刺さりすぎるメッセージだった。1億円借金して、8人の若者たちがファンのためにこんなに立派にやり遂げているのに、一体俺は・・・。(以下略)YZERRはZOT on the WAVEプロデュース、「ZION」でカタルシスを開放するようなラップを響かせた。Tiji Jojoとの「Back Stage」を歌い、「BAD HOP WORLD 2020」は終盤へ突入していく。




「川崎区で有名になりたきゃ、人殺すか“俺みたい”になるかだ」


『BADHOP ALLDAY Vol.2』から「Prologue」で再び、BAD HOPがステージ上に顕現。「Mobb Life」、「Ocean View」、Tiji Jojoの「White T-shirt」、T-PablowとYZERRによる「Life Style」、「これ以外」、「Diamond」とBAD HOPの人気を決定づけた『Mobb Life』、『BAD HOP HOUSE』の2枚のアルバムから往年の曲を次々に投下。「君たちのスタイルじゃ売れない」そう大人たちに言われてきたと語ったYZERR。しかし、今や、彼らは日本を代表するヒップホップヒーローになった。メディアに過度な露出をすることもなく、信頼のもとにチームを率いて、自分たちのスタンスを貫きながらマーケティングをハンドリングし、1万人超規模の会場でチケットをソールドさせる。BAD HOPのようなグループは他に類を見ない。


「今日ここでライヴできるのはいろいろな人たちの愛でしかない。みんなは次は俺たちをどこで観たい? 」




T-Pablowは画面越しに繰り返し問うた。“アル・パチーノじゃなくてアル・カポネ”とはよく言ったもので、文字通りストリートから自分たちで成り上がってきた者による、純度の高い言葉は説得力が違う。かつての川崎工業地帯のワルたちはその面影をわずかに残しつつも、すっかり成熟したアーティストの風格を漂わせている。

まだあどけなさと鋭さが同居していた頃の「Chain Gang」は彼らの初心、原点とも言えるかもしれない。今回はキーを変えたサビでその成長を見せつけた。自分たちも大変な状況にあるなかでT-Pablowは「新型コロナウィルスで中国の人たちを責めるようなことを言うのも違う。架空の敵を作らされて、憎しみを向けたらそれは思う壺だ」と、差別や社会に対する忌憚のない意見を堂々と述べた。そして重低音鳴り響く理貴プロデュースの「Kawasaki Drift」が展開。T-Pablowバースのパンチライン、


「川崎区で有名になりたきゃ、人殺すか俺みたいになるかだ」


と元々は“ラッパー”である部分を自身に言い換えたシャウトにはグッと来るものがあり鳥肌が立った。少年Aからスーパースターにまさに“成った”ことが証明された瞬間だった。




BAD HOPの挑戦は続く


最後を締めくくるのはTurbo & Wheezyプロデュースの「Foreign」。曲が終わると、ステージは暗転。着陸のアナウンスがなされると途中で映像はノイズとともにシャットダウンされ、浮かび上がってきたのは「BAD HOP WORLD 2020」の文字と“続”の文字。この公演はBAD HOPの現段階までの集大成であったことには変わりないが、彼らのストーリーと挑戦は続いていく。そして、これ以上のライヴを見せてくれることを期待したい。ちなみに僕もこの配信を観て、BAD HOPのライヴをまた観たいと思ったクチである。(作品は聴いているが、ライヴに関しては以前に一度、クラブイベントでのライヴを観たっきりだ)加えて、友人や兄弟間とのグループLINEで、“BAD HOP無観客LIVE”という話題を数日間たくさん共有したし、BAD HOPの流儀を貫いたことが結果的にBAD HOPのライヴを観たことがない、普段聴かない層にもリーチしたのではないだろうか。




BAD HOPはチケットを全額払い戻しした上で、ライヴ配信では投げ銭システムを採用し、現在はクラウドファンディングサイト「CAMPFIRE」で支援を呼びかけている。本来、この日さきがけてオーディエンスに発表する予定だった3rdアルバムや、配信された「BAD HOP WORLD 2020」のライヴDVD、「Lift Off ドキュメンタリー」のDVD、今回のライヴで販売予定だったグッズ全種などがリターンに含まれる。高額支援者には今後5年間全てのライヴに無料招待するゴールドパスが用意されている。


CAMPFIRE:【BAD HOP】借金1億の無観客ライブをみんなで支援しよう! 



リアルタイムで生配信を観ていた人のピークは収容人数のおよそ倍、3万3000人弱。24時間限定で公開されていたアーカイブの再生回数は3月2日(日)の23時59分時点で75万View近く回っていた。言葉通りに、極限のネガティヴな状況をポジティヴに変換したBAD HOP。今回無観客ライヴを敢行したことで、1億円以上の価値をBAD HOPは示すことに成功したと個人的には思う。(広告費用の相場が分からないうえに、1億円という数字自体がどんなものか僕にはリアリティがなさすぎて想像が及ばないので、あくまで感覚として)簡単なことではないけど長期的にみて、実質の負債もペイできるのではないだろうか。ライヴの最後の曲となった「Foreign」でYZERRが


「狭い国で妬み愚痴るダサい奴は無視 Jordanの靴を履いて登るFUJI」


とラップしているように、この小さな島国から世界を舞台に、活躍の場を広げていくであろうBAD HOPをまだまだ観ていたい。月並みな感想だが、僕ですらこのライヴに励まされ背中を押されたのだ。だからこそ、この困難な局面をはねのけて、日本のキッズたちにとってのヒップホップドリームとして、BAD HOPが君臨し続けてくれることを願う。




written by TOMYTOMIO


Photo by cherry chill will.




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