インタビュー|“終わらない・ループしない”BGMデバイス「AISO」が提案する、これからの音楽の在り方

ベルグハインなどヨーロッパ各地でDJプレイを続けてきた日本人サウンドデザイナー/DJ、日山豪のアイデアから生まれた自動BGM生成デバイスについて話をきいた。
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2021.05.14 09:00

昨年10月に発売された『AISO AUTOMATIC BGM GENERATOR』(以下AISO)の第2弾がこのほど発売となった。


AISOは「終わらない・ループしない」という特徴を持つ自動BGM生成デバイスだ。サウンドデザイナーの日山豪が代表を務めるサウンドブランディング・音楽制作事業を展開する株式会社エコーズブレスが開発・販売を手がけている。


第1弾では日山豪のほか、"ナカコー"ことKoji Nakamura、duennの3組がそのサウンドを手掛けたが、第2弾では日本を代表するテクノプロデューサーのHIROSHI WATANABE aka KAITO作曲による「ZERO GRAVITY TRAVEL」、マルチ楽器奏者で作曲家のOKADA TAKURO作曲による「Between Water And Music」を収録した新たなAISOが販売されている。


AISOを世に送り出した日山豪は、サウンドデザイナーとしての顔を持つほか、海外の名だたる名門テクノレーベルや自身が関わる国内テクノレーベル「HueHelix」から、クラブのダンスフロアを直撃するようなワールドクラスの楽曲をいくつも発表し、日本を代表するテクノプロデューサー/DJとしての顔を持つ。また、それ以外にもエレクトロニカ/アンビエント名義のLisMとしての活動も行うなど、彼の音楽活動は実に多面的で多視点だ。


今回、そんな日山氏とAISOの開発に関わったkusabi.incのプロデューサー・津留正和氏、プログラマーの安友氏に、開発のきっかけや今後の展望などAISOを通してどんなことを実現したいのか、その考えや想いをたずねてみた。




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音の塊ではなく、音の欠片を使うことで生まれた「終わらない・ループしない」音楽


ーーAISOは「終わらない・ループしない」音楽を構築し続けるデバイスですが、どういったきっかけでこの形を思いついたのでしょうか? 


日山:店舗向けの音楽制作案件を受ける中で、クライアントから必ず要望としてあがってくることが3つあります。まずはBGMの曲間でフッと空気感が変わるのが気になるということ。また、音楽サービスのプレイリストをかけていてもすぐ飽きてしまう、楽曲が店舗のイメージや雰囲気にあわないということ。さらに勤務時間中、同じ曲を何回も繰り返して聴き続けるのがスタッフの苦痛になり得るということ。


僕もこれらの問題を解消するために色々と試行錯誤を続けてきましたが、ある案件に取り掛かっている時に、音の欠片を使って自動でコンピューターが構築するように音楽を生成することができたら全て解決するんじゃないかということを思いついたんです。


そもそも音楽は完成した“塊”のようなもので、それを何かほかのものと繋ごうとしても無理が出てしまう。だから曲間を無音にして次の曲に繋げなければいけないんですよね。さらに、曲には作り手のメッセージが込められていて曲調も決められている。そうなると曲に対しての好き嫌いも出てしまうので、例えば好きな曲がかかるとそちらに意識がいってしまい仕事が捗らない、ということもあると思います。


でも、音の欠片を組み合わせていくような音楽であれば、印象に残らず音を聴いているという感覚が薄れる。これは良いアイデアだと思い、その時のクライアントだった安友さんに相談してみたんです。そして「こういうプログラムを書けば実現できます」と言っていただけ、そのことがAISO開発の最初のきっかけになりました。



音楽の聴き方、その在り方に関わる媒体を自分で作ってみたかった


ーーAISOは、なぜハードウエアとして制作・販売することになったのでしょうか?


日山:構想初期段階ではプログラムのみだったものをハードウエアとして制作したことには、個人的な想いが関係しています。例えば、ミュージシャンの音楽を表現する方法やリスナーへの届け方、もう少し大きく言えば“音楽の社会への放ち方”を考えた時に、レコードやカセット、CD、ストリーミングのように何かの媒体に乗せてリスナーの手元に届けるという方法が一般的だと思います。


でも、対価を支払っているリスナーに対して録音したものを届けるだけではなく、もう少し別の方法があるはずだと考えていたんですね。


音楽を届ける媒体に限らず、ミュージシャンや作曲家の音楽の作り方も含めて、音楽の聴き方、その在り方に関わる媒体を自分で作ってみたいと考えるようになり、AISOをハードウェアとしてお客さんの手元に届けることにしました。





ベルグハインを始めヨーロッパ各地でプレイしてきたDJ経験を別の形で活かす


ーー日山さんは、サウンドデザイナーとしての顔だけでなく、Go Hiyama、LisMというクラブミュージックのプロデューサーという顔も持っています。先ほどの話にも出てきた“繋ぐ”という感覚はDJにおいて重要な要素だと思いますが、その経験はAISOにどのような影響を与えていますか?


日山:DJだと「この曲でこうすれば盛り上がる」というセオリーみたいなものもあるし、だからこそ日本人の僕がヨーロッパにDJをしに行ってもきちんと通じるんですよね。


ーー 一時期、毎年のようにDJでヨーロッパをツアーしたり、それこそベルグハインでもプレイされていますよね。


日山:12年間ほど連続でヨーロッパへDJしに行っていました。その時に、音楽は言葉でなく感性で通じ合えるものだということを改めて実感しましたが、その経験は別の形でも活かせるはずだと思っていて、それがたまたま形になったのがAISOだと言えますね。



ーーサウンドデザイナーとして多くの店舗BGMや音空間の設計に関わっておられますが、日山さんが考える“人が聴いて心地よいBGM”とはどのようなものなのでしょうか?  


日山:BGMを制作する場合は、大前提として対象となる空間や場所のデザインを考慮する必要があります。例えばオフィスのBGMを制作する場合は、オフィスという空間が何の機能を持っているかを考える。そこから視点を定め「その場所での心地よさとは何か?」という考えに至るわけです。


全ての場所に対して一律に心地良い音というものはほとんどないと思っていて、あるとすれば、それは場所や空間の機能に対して心地良い音です。そういった考えのもと、クライアントがBGMを必要とする空間の機能を考えた上で音を作っていくという感じですね。


ーーそれはフロアの雰囲気を見ながらコントロールしていくDJにも通じる部分ですよね。


日山:そうですね。ただDJに関して言えば、僕はフロアの雰囲気を見ながら選曲することもあれば決め打ちでやることもあるので、確実にその選曲方法が良いとは言い切れない部分はあります。でも、DJにしてもBGM制作の仕事にしても、確実に「こうでなければいけない」という考えに固執してしまうと面白くならないので、決めつけはしないようにしています。


音源の制作は多視点で物事を考えているアーティストに依頼


ーーAISO第2弾ではHIROSHI WATANABE aka KAITOさん、OKADA TAKUROさんが手掛けていますが、お二人が参加した経緯を教えて下さい。


津留:AISO第1弾に参加していただいたナカコーさんとduennさん、日山さんには以前から交流があったんですね。それでナカコーさんとduennさんがDOMMUNEで「HARDCORE AMBIENCE」の特番を放送するときに、ちょうど僕らが開発中だったAISOに興味を持っていただき、僕らにも出演のお声がかかりました。



津留:duennさんはOKADAさんと一緒に『都市計画(Urban Planning)』というアンビエントアルバムを去年リリースされているのですが、その特番の当日OKADAさんも現場にいらっしゃって、特番のトークセッションではOKADAさんからAISOに対して色々なアイデアをいただくことができました。また、そこで知り合ったことをきっかけにOKADAさんの曲を聴いてみたところAISOと通じる部分があったので、第2弾への参加を打診することになったんです。


AISO · OKADA TAKURO / Between Water And Music / AISO


日山:HIROSHIさんは、福岡で開催された「ourd」というイベントに僕が出演させていただいた時に知り合いました。HIROSHIさんは写真家としても活動されていることもあって、その時に写真の話を沢山してくださったんですよね。僕は多視点で物事を考えている人に興味があるのですが、HIROSHIさんのお話を聞いてまさにそういう人だと感じたので、AISO第2弾への参加を打診してみたところ快諾していただくことができました。


AISO · HIROSHI WATANABE aka KAITO / ZERO GRAVITY TRAVEL / AISO


日山:OKADAさんに関しても、DOMMUNEの時に曲作りの話だけではなく、「AISOをロボット掃除機の上に乗せてみてはどうだろう?」といった聴き方や鳴らし方に関するお話もしていただけて、彼もHIROSHIさんと同じく多視点で物事を考えているタイプの人だということがわかりました。そういった経緯から第2弾ではお二人に参加していただいています。



AIではなくミュージシャンに委ねられた自動BGM生成デバイス


ーーAISOはどのような仕組みで半永久的に新しい音楽を生成するのでしょうか?


安友:名前の中に“AI”という文字が入っているのでAIを使っていると思われがちですが、実は一切使っていません。さっきの日山さんの話の中に“音の欠片”という表現が出てきましたが、AISOではミュージシャンの方に“音の欠片”を作っていただき、その音の欠片が一斉に鳴り続けるという仕組みになっています。そのため、音が同時に鳴った時に音同士がぶつからないようにミュージシャン側で調整していただいています。


ただ、その音同士は必ずしもぶつからないようにする必要はありません。仮にぶつかることで変わった音になったとして、ミュージシャン自身がそれで構わないのであればそれは変わった音として成立するようになっています。このようにある種の偶発性を生み出すことはプログラムどおりに音を作るAIにはできません。その意味で、AISOの音作りはミュージシャンに委ねられていると言えますね。


ーーAIではなくアーティストにその部分を委ねているからこそ、そこに人間味やアーティスト性が現れるということなのでしょうか?


安友:そうですね。だから、場合によっては音の欠片を作っているミュージシャン自身すら思いがけない音がAISOから聴こえてくることもあります。


津留:ナカコーさんはそのような仕組みについて「簡単に自分の想像を裏切ってくる」とおっしゃられていますが、思いもよらない音が作りだせるという点は、作る側からしてもとても面白い部分だと思いますね。


AISO · Koji Nakamura / etude / AISO


ーーAISOを実際に購入されたお客さんからはどんな反響があるのでしょうか? 


津留:お客さんのSNS投稿を見る限りでは、僕たちが考えていたとおりの使い方をしてもらえている印象があります。例えば、「AISOだとリモートワーク時に流しっぱなしでも同じ音が絶対にかかることはないので長時間聴いて過ごせる」「いつ聴いても違う表情を見せるところは、今までにはなかった新しい音楽の聴き方だ」などと言ってくださるお客さんもいます。そんな風に感じてくださっているのは非常にありがたいですね。



テクノロジーは自分が表現したいことを実現するための便利な道具


ーー最近ではAIを搭載したものはもちろん、より直感的な作りができるように扱いやすい音楽制作機材も増えています。そういったテクノロジーとミュージシャンの関係についてはどうお考えですか?


日山:さっきのDJや音楽制作の姿勢の話と同じで、機材が進化して扱いやすくなること自体は否定しません。それよりも、そういったものとどう付き合っていくかを考える必要があると思います。


一時期テクノでも、がっつりテクノロジーを使って“変な音を出したもの勝ち”みたいな曲が流行った時期があったんですよ。そういう曲はミュージシャンというよりプログラマーの音じゃないかと思うくらい、音として理論的に突き詰められていた感じがあったので、個人的にはつまらないと思っていました。


もちろん、そういう音自体に興味はありましたが、その作り手に関しては「それはあなたじゃなくてもいいよね」と。僕としては昔から、全部コンピューターに任せてしまうような音楽の作り方はおもしろくないんですよね。それよりも何かアツいものを感じる、アートとしての息遣いが感じられるものの方に僕は興味をそそられます。テクノロジーに関しては、自分が表現したいことを実現するための“便利な道具”だと考えていますね。



“ミュージシャンの表現媒体”と“音楽と社会の接点の提案”という2つのライン


ーーAISOの今後の展望を教えてください。


日山:今後については、“ミュージシャンの表現媒体”と“音楽と社会の接点の提案”という2つのラインで考えています。そしてこの2つは交差する話でもあります。


前者に関して、今の音楽家の表現はDJを含めて人前で演奏するか、録音媒体としてその作品を残すかの2つしかないと思うんです。でも、ミュージシャンの表現方法はそれだけではないはず。


その意味でAISOのような形で音楽をリリースすることは、ミュージシャンの視野や音楽表現の可能性を拡張することにつながるはず。だからミュージシャンに関わっていただくAISOの制作ではそういったことをどんどん進めていきたいですね。


AISOは使い方を限定せず多視点で使うことで、ミュージシャンの別の可能性を広げていくことができるデバイスです。例えば、アート展示や自分のライブで一緒に演奏することに使ってみるのもいいと思います。そうするとAISO自体も再生機ではなくて楽器になりますよね。それに1人のミュージシャンだけでAISOの音を作る必要もありません。誰かほかのミュージシャンと共作することでまた新しい「終わらない音楽」が生まれます。



AISOを通じて音楽と社会の接点の可能性を考え直す


ーーなるほど。では“音楽と社会の接点の提案”とは何を意味するのでしょうか?


日山:これは“音楽と社会との接点の可能性を考え直す”という意味です。実は最近、熊本にオープンした「THE BLOSSOM KUMAMOTO」というホテルのロビーと客室にAISOを導入していただきました。


ホテルは昼と夜では雰囲気もかなり違うので、そのAISOは自動で時間認識ができて、時間にあわせて曲調が変わる設定になっています。例えばCDやプレイリストのような録音された音楽、つまり音の塊だとそういった使い方はできませんが、そこにAISOのニーズがあることは僕らもこの案件をいただくまで気づいていませんでした。


津留:今はそれぞれのクライアントの要望にあわせたAISOも作っていて、そのような案件を通じてAISOが広がっている部分もあります。


一口にホテルと言っても、規模も空間の雰囲気もそこで表現したいことや人の体験の仕方も違うので、それらをきちんと理解した上で空間のディティールを見ながらオーダーメイドのAISOを作っているんです。


もちろん音源のライセンス料をいただければ、レディメイドのAISOを店舗などでもお使いいただけますが、自社にあわせたAISOを作りたいという企業も増えつつあります。


日山:これは最近の社会的な流れでもある反コモディティ化、つまり「企業はどこでブランディングをしていくべきなのか?」という話とも関係します。今はどのプロダクトもサービスも似たり寄ったりで、企業としてもどこで差別化を図るのか頭を悩やませています。そのような状況の中で差別化を図るための対象として企業が音を選んでいるという点は、とても興味深く感じています。そういった背景があって、オーダーメイドのAISOを作る案件が増えてきているんです。


ーー視覚的な部分でのコモディティ化が進み過ぎたことで、企業もプロダクトやサービスの差別化を図るために人の聴覚に訴えていくことに注目しているということでしょうか?


津留:はい。企業も音の可能性に気づき始めているんだと思いますね。



新たな音楽の需要と供給のエコシステムに


ーー2つのラインは交差する話とのことでしたが、どのように交差するのでしょうか?


日山:その部分に関していえば、僕はAISOを独占しようとは思いません。ほかのミュージシャンに使ってもらっているのはその気持ちの表れです。


もし、クライアントにAISOを通して音の可能性や価値に気付いていただくことができれば、そのクライアントとは今後も音にまつわる仕事でのお付き合いが続いていく可能性が生まれるはず。そのためにもまず僕が先にやってみて成功すれば、そのやり方で上手くいくという証明にもなるし、色々なミュージシャンにもAISOへ参加してもらう機会ができます。


だから今は、音楽と社会との接点をどんどん増やしていくことを大きな目標のひとつにしています。


ーーまさにAISOを通じて、新たな音楽の需要と供給のエコシステムを作るという話ですね。最後に、“AISOとは何か”を改めて一言で表すと?


安友:購入したお客さんにとってはまさに音が鳴る楽しい“おもちゃ”ですが、これを使って作曲しているアーティストも今までと違う作曲ができて楽しいといってくださるので、アーティストにとっても“おもちゃ”といえるようなデバイスですね。


津留:実は、AISOのプログラムはまだ完成しているというわけでなく、周囲のフィードバックを取り入れながら随時アップデートしています。どうすれば使う人により楽しんでもらえるのかを追求しているからこそなのですが、そういう意味ではAISOは“成長していく音楽”だと言えるはずです。


日山:要約すると、 AISOとは“音楽の在り方への提案”と言えますね。





【商品情報】




AISO AUTOMATIC BGM GENERATOR

内容物:microSDカード(1曲分)

再生機器:ACアダプター 

サイズ:9.4cm × 6.9cm ×高さ3.6cm ・重さ:130g

電 力:最大15w

価 格:56,363円(税抜き) 62,000円(税込み)

取扱店:エコーズブレス公式オンラインショップ

info:https://soundtimes.theshop.jp/


AISO: https://aiso.ooo/



written by Jun Fukunaga





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