音楽制作でも環境に配慮したプロダクトを選びたい。AIAIAIのスタジオ向けヘッドフォン「TMA-2 Studio XE」をぷにぷに電機が実機レビュー

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北欧デンマークのオーディオ・メーカーAIAIAIから、音楽クリエイターのためのスタジオ/制作向けヘッドフォン[「TMA-2 Studio」と「TMA-2 Studio XE」](https://www.soundhouse.co.jp/material/aiaiai- tma2studio/ "「TMA-2 Studio」と「TMA-2 Studio XE」")が発表された。

デンマークは「Bang & Olufsen」「DALI」などの人気メーカーをはじめ、世界有数の音響機器メーカーの生産拠点が点在しており、オーディオ界ガチ猛者勢のひしめく修羅の国だ。
AIAIAIの製品もスピーカーユニットやケーブルなどサウンド面から、ヘッドバンドやイヤーパッドの素材など装着感まで徹底的なこだわりが施されており、「TMA-2」シリーズはリッチー・ホウティン、ボノボ、ケイトラナダなどのグローバルなアーティストが愛用、クリエイター層からもお墨付きのクオリティで、音質・デザインともに世界的に高い評価を得ている。
しかし、AIAIAIのこだわりは音質とデザインだけでは終わらない。AIAIAI は「環境への配慮をしたうえでより良いものを作る」という設計哲学を持っており、製品からパッケージに至るまで環境負荷の低減を強く意識しているブランドだ。
その思想から生まれたモジュラー式ヘッドフォン「TMA-2」シリーズは、ヘッドフォンの各部品、つまりヘッドバンドやイヤーパッド、スピーカーユニットなどが個別で販売されており、ヘッドフォンの各部品はユーザーが簡単に交換したり、自由なカスタマイズやアップグレードをすることができる設計になっている。つまり購入後は壊れた部分やアップグレードしたい部分だけを購入して、長く使い続けることができるのだ。
本記事ではシンガー/音楽プロデューサーのぷにぷに電機に「TMA-2 Studio XE」を実機で試していただき、その音質や使用感を率直にレビューしてもらった。「ブレスの聴こえ方までこだわって良いテイクを追求する」というぷにぷに電機が制作用のヘッドフォンに求める機能から、環境問題という視点から見た音楽制作についてまで、たっぷりと語ってもらっている。
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制作用ヘッドフォンは機能重視、フラットで長時間使っても疲れないものを選ぶ
―ぷにぷに電機さんは普段どのようなヘッドフォンを使っているのでしょうか。
ぷにぷに電機:SonyのMDR-CD900STです。ヘッドフォンを使うのは主に制作の時なので、機能重視で選びました。特定の帯域がブーストされることがなくて気に入っています。制作用としては装着した時のストレスの少なさもかなり大事なのですが、MDR-CD900STは長時間使っていても疲れづらく、定番のヘッドフォンとされているのも納得です。
ただ、録音用として使うときにはヘッドフォンの角度を調整するための機構がカチャカチャと音がなってしまい、マイクに近づいてASMRのような感じで録音するような場合はノイズになる可能性もあるので、そういうときはイヤフォンを使います。
―ヘッドフォンを選ぶ際に失敗したことはありますか?
ぷにぷに電機:過去に一度ありますね。まだあまり機材に詳しくなかった頃に適当に選んだヘッドフォンです。音的に迫力があって気分は上がるんですけど、そのヘッドフォンで作った曲をスタジオで聴いたら「なんか全然違うぞ??」となって…。周りの人たちから「リスニング用でめちゃくちゃ低音をブーストしたヘッドフォンだから、ミックスでは絶対使わない方がいいよ」って言われました。今となってはすごく初歩的なミスなんですけど(笑)。
イヤフォンに関しても、ライブのときにモニター用のイヤフォンを忘れてきてしまい、近場で適当な安いものを買ったのですが、それはもう全く使い物になりませんでした。ある程度の解像度がないと全然音に集中できないんですよね。解像度高めの環境に慣れてしまうと元には戻れなくなるものなんだなと思いました。
―制作中でヘッドフォンが重要となるのはどのような作業のときですか?
ぷにぷに電機:私の場合は録音後の確認とミックス作業の時ですね。録音したボーカルがよれていないか、かすれていないか、リップノイズがないかなどを確認するとき。あとは息継ぎの部分もかなりこだわっていて、息継ぎだけを何度も聴いて録り直しすることもあるんです。
こういった聴き比べを重ねて、一番いいテイクを残していきます。私の場合は歌詞の途中でもいいテイクをつなぎ合わせるような作業をするのですが、このつなぎ目の確認にもヘッドフォンを使うので、やはり解像度の高いヘッドフォンが必要になりますね。
―ボーカル確認の作業はスピーカーよりもヘッドフォンのほうがいいのでしょうか。
ぷにぷに電機:そうですね、ノイズを見つけたり声のニュアンスを確認したりするのはスピーカーだと難しいと思います。
歌のテイク選びは、たくさん写真を撮ってその中から展覧会に出すものをピックアップするような作業に近いかもしれません。遠くから写真を眺めていても些細な違いなどわからない部分があるので、近くで一枚一枚細かい部分までよく見て、そこからいいものを選んでいくような感覚です。
ボーカルテイクも、同じように聴こえるものでもきちんとヘッドフォンで聴くと微妙な差がわかるので、こういった繊細な作業の積み重ねが最終的なクオリティにつながると思っています。
録音作業はフレーズごとに行うので、例えば4小節とか8小節のワンフレーズを10回以上位録り直すことはざらにあり、1曲トータルの録音数で多いときには1100テイク録音したこともあるんです。作業時間としてはだいたい3日間程度、その間は1日5時間くらいヘッドフォンをつけているので、最初にお話しした通り装着ストレスがないという点もすごく大事ですね。
AIAIAIの「TMA-2 Studio XE」はフラットで低音の解像度も高い
―AIAIAIの「TMA-2 Studio XE」を使ってみて、使用感はいかがでしたか?
ぷにぷに電機:まずサウンドについては本当に申し分ないものでした。制作用にもリスニング用にも万能で使えます。
普段使っているスタジオ定番のMDR-CD900STと比べてもまったく遜色ありませんし、「TMA-2 Studio XE」は低音のまとまりがよく、すごく綺麗に低音が鳴るので心地よく作業できました。低音をブーストしているのではなく、フラットな音質なのに低音がクリアに聴こえる感じですね。キックとベースなど、低音のミキシングもしやすくなると思います。
ちょうど新しくデモが届いたタイミングだったので、歌詞を書くときに「TMA-2 Studio XE」をずっと使っていたんですが、低音がはっきりと聴こえるのでノリよく書けました(笑)。もちろんジャンルや好みはあると思いますが、クセもなく解像度も高いので、個人的な感想としてはミックスやマスタリングにも問題なく使えるヘッドフォンだと思います。
―先ほどお話しされていた装着感についてはいかがですか。
ぷにぷに電機:今回使ったのはヘッドバンドが細いタイプだったので、片耳でモニターする時など後ろにズレやすいところが少し気になりました。ただ、ここがAIAIAIのすごいところで、幅広タイプのヘッドバンドや素材違いなど、ヘッドバンドを交換することで様々な用途に合わせることができるんですよね。なので私の用途の場合は片耳でもズレにくそうな幅広のヘッドバンドに交換しようと思っているんです。
イヤーパッドは厚みもあって痛みも感じず、気になるところはありませんでした。ヘッドバンドや他のパーツも試してみたいので、実機を手に取れる場所が今後できればいいなと思っています。
おしゃれも音質も諦めないスタジオ・ヘッドフォン
―AIAIAIのヘッドフォンはデザインの良さも評価されていますね。
ぷにぷに電機:デザイン、素敵ですよね〜!パッケージもすごく可愛くて箱を開ける前からテンションが上がりました(笑)。


ヘッドフォン自体もすごく好きなデザインで、すっきりした無駄のない形は「さすが北欧!」という感じ。ヘッドバンドもデザインだけで言うと細身の方がスッキリしていて、シティに出かけるときに使うなら断然細身の方がいいです。制作用によくあるゴツめのヘッドバンドだと、髪や服の襟、パーカーのフードなんかと干渉して首にかけておきづらいですが、この細めのヘッドバンドだスッと首にかけられるし、おしゃれに見えますね。
スタジオ用としては長時間でも使えそうな幅広のヘッドバンド、シティではおしゃれな細身という風に使い分ければ、スタジオと同じクオリティの音質でファッション性もあきらめずに1つのヘッドフォンで使いまわせるのはすごくいいなと思いました。
音楽は静かなスタジオの中で作りますが、出来上がったものを外で聴くと結構印象が違うので、できるだけ色んな環境で聴くようにしてるんです。スタジオでは良くても、外で電車やエアコン、人の気配など環境音が入ってくるような状況ではどんな風に聴こえるのか、それをスタジオと同じヘッドフォンで聴き比べられるのはメリットになりますね。

―Sony MDR-CD900STは業務用としていいヘッドフォンですが、さすがにケーブルの長さや大きさなどから街中での利用は少し厳しいですもんね。
ぷにぷに電機:「持って来ちゃった感じですか…?」ってなっちゃいそうですね(笑)。「TMA-2 Studio XE」はおしゃれなヘッドフォンに見えて、さりげなくサウンドはスタジオ仕様なので、私も幅が広いヘッドバンドを購入して、今後はこれ1本でいこうと思っています。
―「TMA-2 Studio XE」はモジュラーヘッドフォンということで最初に組み立てがあると思いますが、そこは難しくはありませんでしたか?
ぷにぷに電機:組み立てはすごく簡単で、箱を開けたら大体わかるようになっていました。説明を読まなくてもカチカチカチっと3〜4工程くらいで組み立てられましたね。


簡単だからこそ、色々とカスタムもしてみたいという気持ちになれます。AIAIAIのウェブサイトをチェックしたのですが、ネオンイエローのケーブルがすごく好きな色だったので欲しいなぁ〜と思っています。欲を言えばヘッドバンドやイヤーパッドも同じ色で揃えたりしたいですね。ヘッドフォンのデザインがすごく可愛いので、色のカスタムができたらさらに萌えると思うんですよ。
―逆に組み立て式になっていることによって部品が外れやすかったり、組み換え時に破損してしまうことはなさそうですか。
ぷにぷに電機:「TMA-2 Studio XE」はつるっとしたシンプルな構造なので、壊れるような機構はほとんどないです。可動する部品が多いほど壊れるリスクも増えますが、このヘッドフォンはヘッドバンドとスピーカーの間にも余計な機構もありません。シンプルで動く部品が少ないので、Sony MDR-CD900STであったヘッドフォンの機構が録音時にノイズになるようなリスクも低そうです。
逆に言えばどんなヘッドフォンも壊れる時は壊れますが、このヘッドフォンは自分で部品交換できるので、そこは一番良いところだと思います。
欧米で活発化する「修理する権利」
―ヘッドフォンはある程度消耗品というか、壊れたら買い換えるというイメージでしたが、自分で部品交換できるのはすごいですよね。
ぷにぷに電機:これはすごく今っぽい製品だと思っていて。欧米では「ライト・トゥ・リペア(修理権)」といって、消費者が自分で買ったものを修理する権利を保障しようという動きが活発になっているんです。
例えば家電などでも「修理するよりも新しいものを買った方が安いから」と部品交換ができれば直せるようなものでもすぐ買い替えて、古いものは廃棄となってしまうことが多いですよね。でもそれは環境負荷がすごく高いし、消費者が修理して使うという権利を奪われているんじゃないかという考え方があって。消費者が修理する権利を保障するために、メーカーが部品や修理情報を消費者に届けられるシステムをつくろうという動きがあるんです。
このヘッドフォンはそういった今の時代の流れにすごくあっているコンセプトだと思いました。私自身も物を選ぶときに環境負荷が気になるタイプなんですが、残念ながら音響機器メーカーでは環境負荷低減という選択肢は少ない印象があります。なので、こういった環境負荷の低いヘッドフォンというを選べるという選択肢ができたことは、すごくいいことだなと。
本体の素材にもリサイクル素材が使われていたり、パッケージにも「FSC」という森林保全に貢献しながら木材を利用していることを示す認証マークが入っていました。パーツの包装は再生プラスチックが使われていましたね。湿気や防水の観点から紙ではなく止むを得ずプラスチックなのかなと思いますが、出来る範囲で環境負荷を低減しようとしているのがわかります。こういった取り組みをしている企業はすごく応援したいですね。

CDとストリーミングの環境負荷はどちらが高い?ぷにぷに電機が考える音楽と環境問題
―ぷにぷに電機さんご自身も普段から環境問題に対して意識を持たれているんですね。
ぷにぷに電機:そうですね、私は自分が死んだ後の地球のことを考えるのが結構好きだったりするんです。もし未来が大変な環境になっていったら、音楽を楽しむどころじゃなくなっちゃうんじゃないかと思えてくるんですよ。
例えば身近な問題だと、気候変動による洪水や土砂崩れなどの災害で家を失ってしまった人は、音楽を楽しめるような状況じゃなくなってしまう。だから音楽に関わるうえで環境問題は他人事ではなくて、音楽をよりみんなに楽しんでもらい自分も楽しむために、向き合っていかないといけない問題だと考えています。
100%環境に負荷をかけないで生活するということはすごく難しいですが、私の場合はその中から1%でも負荷を減らせないかと考えて、楽しみながら取り組むようにしているんです。
例えばスタジオで音楽を作る時も結構な電力を使うので、電力会社を再生可能エネルギー100%利用の会社に変えたんですよ。もちろんその上で節電も心がけるんですが、音楽を作っている電力は全て風力や水力、地熱、太陽光発電などを使っていると考えると、自分のメンタル的にも気持ちが良いですね。
グッズやCDを作ったりする時にも、どうしても減らせないプラスチックがあります。例えばCDのディスク面には複合的な金属が使われていて、こういった複合素材はリサイクルできない環境負荷の高いゴミになるんですね。
そうなるとストリーミングのみでリリースするという選択肢が出てきますが、調べているとイギリスのシンクタンクの調査では、フルアルバムを27回以上聴くならCDの方が環境負荷が低いという研究結果もでてきます。ストリーミングのためのサーバーの電力消費が大きいので、ずっと聴き続けるならダウンロードして物理メディアに保管するなどした方が、環境負荷が少ないんですね。
※BBC:How streaming music could be harming the planet
であればCDをリリースするとしたら緩衝材やCDのジャケットを再生紙にしよう、再生紙を使うならどんなデザインがいいだろうと考えたり、イギリスのレーベルで発売されているような、再生プラスチックを利用したアナログレコードを作ってみようかと考えたり。そういった情報を調べることも楽しいですし、環境について考えたからこそ生まれるクリエイティブな部分も出てくると思うんですよね。
環境負荷を減らすというと難しいことのように感じるかもしれませんが、私も全然完璧じゃないですし、プラスチックを利用しないように心がけていても使ってしまうことはあります。でも、その中で小さなできることを見つけて「今日はちゃんとマイボトルを持ってる!えらい!」とか、できた自分を褒めてあげるようにすると楽しみながら気持ちよくできるのでおすすめです。
音楽を作る、楽しむという点でも、AIAIAIのような企業のプロダクトを選ぶことで環境に配慮した行動ができていると思えますし、何より音質と環境に対する配慮とを両立した製品に出会えたことが嬉しいですね。
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【機材提供】AIAIAI
TMA-2 Studio/TMA-2 Studio XE 製品ページ
https://www.soundhouse.co.jp/material/aiaiai-tma2studio/

ぷにぷに電機
PARKレーベルよりリリースしたシングル『君はQueen』をはじめとして、各配信プラットフォームのプレイリスト/チャートを賑わせている注目のシンガー兼音楽プロデューサー。インターネットを中心に活動し、JazzやBossa nova、Latinをルーツとしたプライベートな楽曲を制作する一方、様々なアーティストとのコラボレーションにより、シティポップ、Future Funk、Future Bass、FunkotやBreak Coreなどジャンルを越えた音楽を生み出している。Future Funkを世界的に知らしめたMACROSS 82-99やNightTempo、Moe Shopらとワールドワイドなコラボを実現し、日本国内では80KIDZやShin Sakiura、Mikeneko Homeless、パソコン音楽クラブ、さよひめぼう、yuigot、s**t kingz、Kan Sanoらと楽曲を制作、日本の音楽カルチャーを拡張している。多彩な世界観をイラストレーターとともに進化させていくコンセプトアルバムを数多く企画・制作するほか、歌詞・楽曲提供なども行う。
ハードウェアデザイナー/クリエイティブディレクターのメチクロとともに毎週水曜日”インナーウォッシュ”ポッドキャスト「LAUNDRY 4:00AM」配信中。
written by Yui Tamura