インタビュー|トリップホップのレジェンド・Trickyが語る、アルバム『Fall To Pieces』と有名であることへの葛藤

Massive Attackの元メンバーで、トリップホップのゴッドファーザーとも呼ばれるTrickyに、14作目のアルバム制作や有名になったことに対する複雑な思い、日本に対する愛について語ってもらった。
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2020.12.07 13:00

イギリスのブリストル出身のラッパー/プロデューサー、リビングレジェンドであるTricky(トリッキー)。彼はAdrian Thaws、元Massive Attack/The Wild Bunchのメンバー、トリップホップのゴッドファーザーとしても知られている。


1995年にMassive Attackを引退しソロ活動をスタート。トリップホップのゴッドファーザーと名付けられたきっかけであるアルバム『Maxinquaye』をリリース。そこから、Bjork(ビョーク), Cyndi Lauper(シンディ・ローパー)、 PJ Harvey(PJ ハーヴェイ), Grace Jones(グレイス・ジョーンズ)といったアーティストとコラボレーションした。


音楽以外では、映画『The Fifth Element(フィフス・エレメント)』に出演、また自伝『Hell Is Round the Corner』を出版するなど活躍は多方面に渡る。


2020年9月に、第14作となるフルアルバム『Fall To Pieces』をリリース。


30年以上のキャリアを持つTrickyに、『Fall To Pieces』の意味、有名になっても慣れないこと、そして日本への愛について語ってもらった。



ー『Fall To Pieces』をリリースして、どんな反響がありましたか?


Tricky:今までは自分の作品への評価を全く気にしてこなかったけど、このアルバムは高評価を受けてるみたいだね!この数年間、心がこもってない、エモーションレスなポップアーティストのリリースしかなくて、みんなそれに飽き始めてるからかも。このアルバムはすごくシンプルだけど、複雑な気持ちと経験から作られてるんだ。


ーアルバムに収録されている「Fall Please」は数年前に完成した曲ですが、ポップすぎて当時リリースしなかったと聞きました。今がリリースするタイミングだと思った理由は?


Tricky:まだパリに住んでた時に書き終わった曲だね。実は、「Fall Please」は違うシンガーのために書いた曲なんだけど、彼女はレーベルを離れてその後どうなったかわからない。自分のためにはコマーシャルすぎて使う気にならなかったんだ。でも今のマネージメントに気に入られて「絶対このアルバムと一緒にリリースしたほうがいい」と言われたし、友達にも同じようなことを言われた。


自分の音楽を誰かに送って感想を聞くことなんてほとんどないんだけど、たまたまこの曲を仲良い友達に聞かせて。その友達はゲットーな町で育ったかなりハードな奴なんだけど、「最高じゃん!」と言ってくれたんだ。彼は私よりアーバンなんだよね。私はロック、インディー、クラシカルも聞くけど、彼はアーバンな音楽だけ聞く。私がポップすぎると思っていた曲をこんなにゲットーな人が気に入ってくれて、びっくりしたよ。でも、彼が気に入ってくれたからリリースすることを考えたんだ。あとは「In The Doorway」も数年前に書いた曲だよ!


ーふだん誰にも音楽を送らないのに、なぜ彼には送ったんですか?


Tricky:特に理由はないけど、彼のような人に一度聞いてもらいたかった。


ー『Fall To Pieces』というアルバムタイトルはあなたにとってどんな意味ですか?


Tricky:“人生は浮き沈みがある”という意味。例えば、私のライブシンガーMarta(マルタ)にとってはこれが初めてリリースしたアルバム。ポーランド出身の子で、アルバムがリリースされていろんな新聞や雑誌にフィーチャーされてたけど、リリースが嬉しいはずなのに「今年はコロナの影響で最悪の年だ」と言っていた。ポーランドはコロナも政治も全体的にうまくいってなくて、若いのにやりたいことが何もできない、ツアーもできない、自分の人生が「falling to pieces(バラバラになってる)」と言っていた。でも、特に若いアーティストたちには伝えたいんだけど、成功というのは幸福とは違うことなんだよ!


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ーあるインタビューで、“タイチーのクラスの帰りにバスを待っていたとき、ある女性の髪の毛を耳にかける仕草が印象に残って、それについて歌詞を書いた”と言っていましたが、今でもそういった歌詞の書き方をしていますか?


Tricky:数年前にU-Bahn(ベルリンの交通電車)を待っていたら、年配のカップルがいて、女性が男性の頬に両手をあてている見かけたんだ。それがすごくパワフルなイメージだと思った。彼女が彼を失いたくないと思っているのが、その仕草から感じられたんだ。彼に対する愛が大きくて、絶対離さないと思っていることが伝わってきた。長く誰かと一緒に付き合っていると、お互いにずっと一緒に生きていくことがわかってくる。どの曲か覚えてないけど、そのビジュアルも歌詞になった。今でもそういった何気ないことからインスパイアされて歌詞を書くことはあるね。


ー今回のアルバムでもそういったシンプルなことから歌詞を書いたんですか?


Tricky:たぶん…最近アルバムを聞いてなくて、どんな歌詞を書いたかもう忘れちゃったんだよね(笑)。自分の作品を聞くのは好きじゃない。パリのレコードストアで私の曲が流れていて、最初は「あれ?この曲聞いたことあるな」と思ってしまったこともある。それくらい自分の曲を聞いてなくて、何をリリースしたかあんまり覚えてない。今話をしていて思い出したけど、ある日クラブに行ったら「Stay」という楽曲が流れてたんだけど。自分の曲だと気づかなくて、一緒にいた友達に「あなたの曲じゃん!」と言われたよ。自分の曲をクラブミュージックとしてとらえたことがなくて、かなりびっくりした。DJのところに行って「なんでこの曲をかけたの?」と聞いちゃった(笑)。


ー常に制作をしていると言っていますが、次の作品の制作もすでに始まっているんですか?


Tricky:もうすぐ完成する作品がたくさんあるよ。でもリリースするなら来年かな。1つは来年の後半には絶対リリースしたいけど、どの作品にするかまだ決まってない。昔作った音楽もリリースする予定だし、最近制作したものもリリースする。1枚は13〜14人のシンガーがフィーチャーリングするコンピレーションアルバム。でもまだ制作が終わってないから、誰がフィーチャリングされるかは言えない。もう1枚は自分の楽曲をカバーしたカバーアルバム。昔の曲から最近の楽曲までカバーする。リミックスとは言わないけど、全て違う雰囲気にアレンジした。


ーコンピレーションアルバムに、過去にコラボレーションしたアーティストはフィーチャリングされていますか?


Tricky:今回のアルバムに参加したMartaだけかな。あとはNneka(ネッカ)。それ以外のアーティストは初めてコラボレーションするアーティスト。このアルバムは『Lonely Guests』というタイトルをつけた。



ーアーティストとして30年のキャリアがありますが、有名になったことに対しては複雑な感情があるとよく言っていますよね。有名になったことで今でも慣れないことはありますか?


Tricky:そうだね。成功するのが早すぎたのかも。Martina(マルティナ・トップレイ=バード)がバンドのボーカルだった時、アルバム『Maxinquaye』のリリースに合わせてIsland Recordsと契約した。Island Recordsに「あなたはもっとTrickyをやらなきゃ」と言われて初めてTricky名義でリリースしたけど、アルバムを1,2枚リリースして、ちょっとした取材を受けるだけでツアーもしないつもりだった。アンダーグラウンドアーティストのままでいると思ってたのに、アルバムがチャートで3位を獲得して、そこから急に有名になっちゃった。


昔チョコレート中毒で、毎朝起きたらチョコレートバーを買いに行くというルーティンがあったんだけど。ある日チョコレートを買いに行くために家から出たら、家の周りの道路に私のポスターがたくさん貼られていた。その後David Bowie(デヴィッド・ボウイ)が私についてストーリーを書いたりして、道で声をかけられることも増えて。有名になるための心の準備ができてなかったんだ。声をかけてくる人にはいい人もたくさんいるけど、びっくりさせられることも多い。「なんでそんなバカなことするんだ?」と思っちゃう。この前も店に入ったら、おばさんが「昔のTrickyが中にいるよ!」と言ったのを聞いて。「昔のTricky?どういうこと?私のこと知らないじゃん!」と思った。私が電話で話しているときに声をかけてきて、電話中なのに話し続けようとする人もいるんだけど、そういうのも理解できなかった。


ー今まで出会った中で一番不思議なファンはどんな人でした?


Tricky:それはすぐ答えられるね。ヨーロッパのどこかで男性に血が入った小さな瓶を渡された。もう数年前のことだけど。「僕の血だ!」と言って渡されたよ(笑)。ショックすぎて彼が話したことはなにも覚えてない。速攻で捨てたよ。


ーアルバムの話に戻りますが、今回のジャケットはカタカナで“トリッキー”と刻まれた茶碗を持っているアートですね。このジャケットについて教えてもらえますか?


Tricky:実はそれは本当の茶碗なんだ。昔Instagramで誰かがその写真をDMで送ってきた。写真を見て、80・90年代にリリースされていたアルバムのカバーアートを思い出したんだよね。それで気に入って、写真を使わせてもらった。正直誰から送られてきたかは覚えてないけど、東京に住んでいる人だと思う。その人がこのアルバムジャケットを見たかが気になるんだよね。ちゃんとクレジットしたいと思う。


ー日本っぽいアートのタトゥーをたくさん入れていますか、日本とは何か特別の関係がありますか?


Tricky:昔から日本のアートがすごく好きで、ツアーのおかげで何回も日本に行くことができた。クリスマスホリデーでも遊びに行ったことがあるし。タトゥーは今になって入れなければと思うんだよね。私が音楽を始めた頃、あんまりタトゥーのスリーブを入れてる人はいなかったけど、今だとみんな入れてる。日本でタトゥーを入れたこともある。すごく気になっていたお店に行ったんだけど、最初はタトゥーを入れてくれなかった。でも毎日通ったらやっと入れ始めてくれて。Hiroshiというレジェンドのタトゥーアーティストにやってもらったよ。普通、彼にタトゥーを入れてもらうためには2年くらい待たないといけないほど予約でいっぱいなんだ。アートはもちろんだけど、日本はとても住みやすい国だと思う。私はパンを食べないし、食べる量がそもそも少ないし!


ー安全に旅行できるようになったら、また日本でライブしてくださいね!


Tricky:もちろん。でも日本は、何年か前にツアーで来日してるアーティストは今なかなかブッキングされない。少しロンドンに似てる部分があって、「今っぽい」アーティストじゃないと呼ばれることはない。ずっと前からの夢だけど、日本でアルバムを収録したいんだよね。日本のクラシカルミュージシャンとコラボレーションして。日本はリラックスできるし、マッチョカルチャーがないし。


ーマッチョカルチャーとは何ですか?


Tricky:私が育ってきた町では絶対一人で道を歩けない。何かしら問題が起こるから。イギリスだと必ず誰かに声かけられたり、急に喧嘩を売られたりする。日本では道を歩いてても、誰にも邪魔されないじゃん。特に、最近の人はみんな調子に乗ってて、マッチョぶってて、うるさいんだ。だからいつか沖縄に行ってアルバムを制作したいんだよね。それが今一番やりたいこと。


ーそのアルバムもいつか聞けるのを楽しみしています!ありがとうございました。







【アルバム詳細】




『Fall To Pieces』by Tricky


TRACK LIST

1. Thinking Of (featuring Marta)

2. Close Now (featuring Marta)

3. Running Off (featuring Oh. Land)

4. I'm in the Doorway (featuring Oh. Land)

5. Hate This Pain (featuring Marta)

6. Chills Me to the Bone (featuring Marta)

7. Fall Please (featuring Marta)

8. Take Me Shopping (featuring Marta)

9. Like a Stone (featuring Marta)

10. Throws Me Around(featuring Marta)

11. Vietnam (featuring Marta)



Written by Amy






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