Amazonが法人向けクラウドサービスとして展開するAWS (Amazon Web Services)のカンファレンスre:Invent の前夜イベント、「MIDNIGHT MADNESS」においてメロディにギターやシンセなどの伴奏を自動生成するAIサービスDeepComposerとキーボードが発表された。利用料金は、AIモデルのトレーニングが1時間1.26ドル、伴奏の制作は2.14ドル。現在AWSサイトでプレビュー利用の申し込みを受け付けている。
また専用キーボードは米国Amazon.comで99ドルで発売予定。（現時点では米国のみ）
ベートーベンの簡単なメロディとコードをもとにDeepComposerが伴奏をつける動画がこちら
まずは楽曲への正直な感想
さて、まず出来上がった楽曲は・・なんというか90年代の安いMIDI音源のデモソングを彷彿とさせるようなチープでダサいサウンド・・。これをMIDIとして書き出しDAWで編集できるのでサウンドのクオリティはよくなるとしても、機材に詳しい方なら過去にもこれ以上の楽曲制作支援のソフトはいくつかあったこともご存知だろう。しかし、どうやらAmazonの狙いはそこではないようだ。
AIのモデル自体を独自にトレーニングできる
これまでのiZotopeなどを代表とする多くのAI系ソフトウェアは、機械学習（マシーンラーニング）によって鍛えられたプログラムがインストールされ処理を実施するというものだった。パソコンにインストールされた後はマシーンラーニングにより作られたAIプログラムとして作動するだけで、パソコンの中で勝手に勉強をしたり、人類を絶滅させる計画を立てたりはしないし、ユーザーが何度も使ったとしても、そこから新たに何かを学習はしないという仕組み。AIモデルの判断基準となる機械学習の工程はメーカー側で行われ、ユーザーはその結果の強弱などを選べる程度だった。つまるところ、AIと言えど同じシグナルの入力に対しては誰が使っても同じような結果が帰ってくる。便利だがオリジナリティを求めるタイプのものではなかった。
AWS DeepComposerとこれまでの多くのAIソフトとの大きな違いはGANと呼ばれるAIモデルの部分をコードの知識など不要で独自にトレーニングできるところだ。つまり自分の育てたAIモデルを形成し、同じメロディに対しても独自の結果を導くことができるようになる。
▽AWSで提供されるトレーニングツールSageMakerのスクリーン
機械学習について学習するためにデザイン
AWSサイトでも「開発者に機械学習について学んでもらうためにデザインされている」と強調されており、機械学習やAIのマーケット拡大と啓蒙のために発表したサービスでもあるようだ。コードを一文字をかけなくてもAIモデルを生成できるというのは確かに興味深い。また、処理作業はAWSクラウド上の仮想環境内のアプリケーションで行われるため、クラウドコンピューターの活用を音楽制作を通じて広める効果もあるだろう。今後はこのようにアプリケーションはクラウド上で稼働し、操作する端末はCPUスペックの低いものでもアプリインストール不要で重たい作業ができるというサービスが増えてくるのかもしれない。
実際のところどのくらいの金額が必要？
AWSといえば法人向けクラウドサービスのイメージで、時間ごとの料金ということもあるので、実際にいくらかかるのかお金の部分も気になるところ。AWSサイトには使用料金例が掲載されていた。その例では新しいモデル作成には平均で8時間ほどかかるとあり、1曲の生成には1分程度とある。仮にそのままトレーニングに8時間と曲生成に1分だった場合1.26ドル×８＋2.14ドル×0.16ということになり10ドル前後となる。モデル自体は再利用できるのだと思われるので、その後の1曲当たりの単価はかなり安い。ちなみにキーボードはオプションで接続していなくても利用可能。
ちなみに・・モデルの生成に8時間！というのは音楽クリエイターにはなかなかの作業に思えるかもしれない。トレーニングの具体的な方法について記載はないが、コード不要のAIモデルの構築といえど、ここまで時間がかかるというのはある意味ガチな感じがあり、単にちょっと曲調を選ぶとそれっぽくなるようなレベルのものではなさそうだ。我こそはと思われるクリエイターの方はぜひチャレンジしてみては！
written by Yui Tamura
source:
https://aws.amazon.com/jp/deepcomposer/?nc1=h_ls
photo:
https://aws.amazon.com/jp/deepcomposer/?nc1=h_ls