最も聴かれているジャンルへ。ヒップホップ激動の2010年代を振り返る

ハードコアからエモの時代へ。スタイルの広がりとともに成長を遂げたヒップホップの10年間。
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2019.12.29 09:00

「オレ達はカルチャーであり、ラップは新たなロックンロールだ」そうKanye West(カニエ・ウェスト)が2014年に発言した通り、2017年にはヒップホップが誕生して以来初めてロックやポップミュージックを追い越し、アメリカでは最も聴かれているジャンルへと成長した。Drake(ドレイク)のようにハードコアなイメージを脱却した新たなスタイルをもつアーティスト達の活躍により一層広がりを見せていった。


もちろんストリートで生まれたヒップホップがストリートを代弁しなくなることは無いだろうが、それでもヒップホップは2010年代に入ると新たな一面を見せる。Kendrick Lamar(ケンドリック・ラマー)が知性をもたらし、先日他界してしまったJuice WRLD(ジュース・ワールド)に代表される心の闇を訴えるラッパーが誕生し、チャート上位を独占するまでに成長したヒップホップ。2010年代が終わり新たな時代に突入するこの機会だからこそ激動の10年間を改めて振り返ってみよう。



ハードコアからインテリジェンスの時代へ


2015年にKendrick Lamarのアルバム『To Pimp a Butterfly』が11部門でノミネートされたことを機に音楽界には一種の革命が起こった。アメリカでも有数の犯罪地域であるカリフォルニア州コンプトンで生まれた彼は幼い頃よりギャングや犯罪に囲まれた生活を送っていたが、周囲の仲間達とは対照的にギャングに加入せずそのラップスキルのみでストリートを生き抜いてきた。ストリートミュージックのイメージを払拭し、ワイルドでありながらもヒップホップの持つ知性的な一面を世間に認めさせたのだ。


Kendrick Lamarが世間に認められるとともにノースカロライナ州出身のJ. Cole(J・コール)もまたその圧倒的な知性で台頭を表すこととなる。彼が2013年にリリースした「Let Nas Down」は大衆受けする曲を作ってしまったことによってレジェンドラッパー、Nas(ナズ)をがっかりさせたと自身の後悔の念に捕らわれている。J. Coleがレーベルへの不満を漏らしたこの曲はChance The Rapper(チャンス・ザ・ラッパー)のようにインディペンデントで成功を収めたラッパー達にとって足がかりともなった1曲なのでは無いだろうか。


作品を”無料”で発表し続けたChance The Rapperは販売作品の無いまま2017年にグラミー賞を受賞した初のアーティストとなった快挙を成し遂げている(前年にノミネートの条件が変更されてはいるが)。このChance The Rapperの活躍を機にこれまでにもあったミックステープ文化がさらに拍車を掛けて盛り上がりを見せ、アンダーグラウンドの扱いであったラッパー達が続々とオーバーグラウンドに姿を現していく。





ラップスタイルの広がり


音楽プラットフォーム「SoundCloud」の影響もありヒップホップでも膨大な量の作品がリリースされるようになるとラップスタイルにも変化が訪れた。今ではMumble Rap(マンブル・ラップ)とも呼ばれるFuture(フューチャー)、Lil Uzi Vert(リル・ウージー・ヴァート)に代表されるこのTrap Music(トラップ・ミュージック)と呼ばれるスタイルはヒップホップ界の先駆者達からは異論が巻き起こった。ビートに無理にはまらず、リリックというよりはノリ重視。そんなスタイルはヒップホップでは無いとまで言われていた。西海岸の大御所Snoop Dogg(スヌープ・ドッグ)インタビューで「最近のラッパーは皆同じスタイルだ」と苦言を呈していた。


そんな論争の最中トップアーティストに上り詰めていったのが3人組ラップグループのMigos(ミーゴス)だ。彼らにとって初のビルボード1位を獲得したセカンドアルバムのタイトル『Culture』からもわかる通り「なんと言われようと自分たちがレペゼンしているのはヒップホップだ」そんな強い意志を感じるMigosは瞬く間にチャートを席巻し、もはや彼らがスタンダードなのではと思わせるほど彼らのラップスタイルは広まった。


Migosのメンバーの1人Offset(オフセット)と結婚したCardi B(カーディ・B)の活躍も忘れてはならない。ストリッパーからのし上がり、女性ラッパーとしてグラミー賞にて初の「最優秀ラップ・アルバム賞」を受賞した彼女は2017年リリースの「Bodak Yellow」で大ブレイクを果たして以降フィメール・ラッパーを牽引し続け、その活躍は2020年代に突入しても衰えることがないだろう。何と言っても彼女はまだたった1枚のアルバムしかリリースしていないのだ。




心の闇を訴えるラッパーたち


ラップのスタイルが多角化していくと同時にハードコアで自分たちの強さに押し出してきた時代から、より内面的で一種の心の闇とも言える心情をラップし人気を獲得しているアーティストも誕生した。そんな彼らのスタイルがここ数年では「Emo Rap(エモ・ラップ)」と総称されるようになった。亡くなってしまったXXX Tentacion、Juice WRLDらに代表されるように彼らは自らの闇を曲にし、若者を中心に多くの共感を得てきた。もともと感情的(エモーショナル)な部分がヒップホップに無いかと言われればそうでは無いが、世界を取り巻く未来への不安や現状への不満を誰もが抱えるこの時代にエモ・ラップが受け入れられることは当然のことなのかもしれない。


2018年の音楽配信サービスSpotifyにおける「注目を集めた音楽ジャンル」でエモ・ラップが挙げられたことからも、世界中でこの現象が起こっていることは明らかだ。新たなジャンルというには異論があるかもしれないが、それでもこれからのヒップホップにおいてエモ・ラップがよりスタンダードなスタイルになっていくことは間違いないだろう。彼らのライブではロックバンドのようにヘッドバンギング、モッシュ、観客へのダイブが当たり前のように起こりその爆発力は全てを解放し、ファンに受け入れられていく。自分たちの不満をアーティストが代弁してくれている。それはかつて(今でも)ヒップホップがストリートを代弁し、受け入れられてきた光景と同じであり時代の移り変わりともに成長を遂げたヒップホップの進化系であろう。




ヒップホップが若者を中心として成長と遂げていく文化であることは今も変わらない。そして今の時代を生きる若者にとってジャンルという言葉は何も意味を持たないのかとすら思う。ここに書いたことは2010年代のヒップホップの出来事でもほんの一部ではあるが、振り返りとして参考にしていただきたい。次なる2020年代ではどんな変化を遂げてくれるのか楽しみだ。



written by BsideNews


source

https://time.com/5118041/rap-music-mainstream/

https://www.nbcnews.com/pop-culture/music/underground-mainstream-emo-rap-explodes-streaming-music-scene-n944141


Photo:Facebook/Kendrik Lamar,Facebook/J.Cole,Facebook/Chance The Rapper,Facebook/Future,Future/Migos,Future/Cardi B,Facebook/Juice Wrld,amazon





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