わたしたち、結婚しません! 「結婚しない式」を挙げたアーティストカップルhima://KAWAGOEと黒木麓にインタビュー

結婚しない事を決意したカップルが、「結婚しない式」を挙げた。苦悩と葛藤の末に導き出した、2人にとっての幸せと愛のかたちとは
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2019.07.11 03:00

シンガーソングライターとして活動する黒木麓(クロキフモト)、黒木麓とともに音楽活動と私生活をともにしてきた、イラストレーター/アーティストhima://KAWAGOE(ヒマカワゴエ)は先日、「結婚しない式」を挙げた。結婚式を挙げない、ではなく「結婚しない式」とはいったい何なのか。その経緯や思いを訊いた。


「僕らは決して絆を諦めない」結婚しない誓いこそ、2人の求めた愛のかたち。




ここまで、読んで全くなんのことかさっぱり分からない。という人。どうか安心してほしい。これ、記事にしませんか? と相談されたとき、僕も意味が分からなかった。だけど、すごく興味があったので引き受けた次第だ。


アーティストとして活動するカップルなので、パフォーマンスやインスタレーション、そういう“テイ”のイベントなのかとも思ったが、情報を集めていくとどうやら本気らしい。結婚式同様に、互いの友人、親族を集め、結婚しないことを式場で誓うというのだ。式次第には指輪交換ではなく、メリケンサック(知らない人はググってね)交換とある。なんて面白いこと考えるのだろう。率直にそう思った。


あとに続くインタビューで黒木麓は「さんざん茶番だと言われた」と語っているが、日本における恋愛のかたち・結婚制度は、僕個人の感想としては画一的な印象を受ける。同性婚も国として認められていないし、事実婚のかたちを公言するケースもごく一部に限られるからだ。


交際関係の在り方、セクシャリティ、結婚に対する価値観は、時代とともに多様になり複雑化していっている。というか、もともとあったことなのだけれど、インターネットやSNSの普及によって個人が知ることのできる情報量が圧倒的に増えたことで表面化してきたのではないかと推察される。


にもかかわらず、結婚というシステムだけが置き去りにされていっている感は否めない。カップルが辿り着く答えは別れることと、結婚することだけなのか。一般的な“普通”を求められる見えないプレッシャーの中で、「結婚しない式」で“結婚しません”という誓いを立てた2人に、その経緯や挙式当日についてインタビューした。



「人生の枠組みのせいで生きづらいなら外側から壊せばいい」


—お2人のプロフィールをそれぞれ教えてください。


hima:// KAWAGOE(以下:hima): イラストを基盤にプロダクトやライブペイントなど好き好きやってます。


黒木麓(以下:黒木):シンガーソングライターをやっています。


—早速ですが、「結婚しない式」を思いついたのはどちらですか? また、思いついたきっかけは? 


hima:もともと、結婚できる前提で17歳から付き合っていて(笑)。その後、何度も結婚の話は出ては消え、10年を迎えたときに、干支が一周する時に結婚してもしなくても結婚式をやろう。と私から持ちかけました。もちろん別れる事になるとは思ってませんでしたが。


思いついたきっかけは、もちろん節目だったからというのもあったんですが、私自身がなにかと“普通”という概念にとらわれやすく、20代で結婚しないと…とか次の節目は…とか考えちゃうので、いっそ20代で盛大に式だけでも挙げて、30代に入った時いろんな事に「んん~式もあったしまあいいか!」という気持ちになりたかったというのがありますね。


—himaさんから持ちかけられたこの話を受けて、黒木さんはどう思いましたか? 


黒木:最初は冗談かと思いました。というか本番が始まるまで本当にやるのか? という気持ちでしたね。


—互いにアーティストとして活動をしていますが「結婚しない式」を公にしたにあたり、今後の活動にどんな影響があると思いますか? ポジティヴな面、ネガティヴな面どちらでもかまいません。


hima:別に隠していたわけじゃないですが、恋人の存在をオープンにするのは初めてでした。インスタのフォロワーが顕著に減りましたね(笑)。でもそういう人はもともと私のお客さんじゃないので、どうでもいいです。そういう意味ではポジティヴな事しかないですね。あと、こういう…人生の枠組みのせいで生きづらいなら外側から壊せばいいし、そういうことをしてもOKという…。啓蒙とか文字にするのあんま好きじゃないんで、実行してそれを見てくれた人の何かの力になれたらなー。


黒木:僕は逆にツイッターのフォロワーが増えました(笑)。披露演※(今回の「結婚しない式」では“宴”ではなく“演”としている)ではソロライブのコーナーもあったのですがこれをきっかけに聴いてくれる人が増えましたね。





「結婚はやはり男性、というか主人優位で、なおかつ子供ありきの制度」


—お互いにとって「結婚しない式」をすることはプラスの面が多く記念にもなるけれど、逆にお別れしづらくなるのでは…という点は気になりませんでしたか? 


hima:そもそも別れってなんですかね…。12年も一緒にいて、結婚しない方がお互いの為だと想い合えるのはもう愛じゃないですか。こんな事に付き合ってくれただけで満足です。あと、この12年間はなくならないので、綺麗にしめられて本当によかったです。私はふられた側なのですが何度もふった事があって…。出ていかないんですよこの人! なので、自立の一歩を自分の足で踏み出してくれたのでよかったなーと思います。


黒木: スッキリしました。これ以上一緒にいることはよくないってお互いわかっていながら、離れられずにいましたから。お互いの夢を確認し合うこともできましたし、「結婚しない式」をやることでスタートできた気がします。


—「結婚しない式」についてご両親やお友達など周りの人はどういった反応でした? 


hima:うちの親は最初は困惑しつつ、「え、それはおめでとうでいいの?」とか「そのまま結婚すればいいのに…」とか言ってましたが、最終的に家族内で納得して式に来てくれました。友人は誘った当初「おもしろい! 」派と「茶番乙」派でだいぶわかれましたね。面白い茶番だと思って来た人は当日、茶番劇ではない事をわかってくれたと思います。結構な人が泣いてましたし。私も黒木さんもめちゃくちゃに泣いてたんですけど。


黒木:友達からは茶番だと散々言われましたね…。最後まで理解してくれなかった人も多いですが、素晴らしいと言ってくれた人もいます。半々くらいですかね。


—昔に比べて今は「女性は結婚して子供を生むのが幸せ」「男性は家庭を支えるのが使命」など古い価値観が薄れ、だんだんと多様化しつつあるように僕は感じますが、ご自身の人生において「結婚」をどういったものとして考えていますか? 


hima:結婚はやはり男性、というか主人優位で、なおかつ子供ありきの制度だと思います。社会全体の風潮が変わっても、パートナーや自分の意識までは今すぐには変えられませんからね。パートナー同士、お互い創作活動をしつつ鋭利な気持ちを持ち続け子育てするのは現状私の環境では無理です。私は気質が男子的なので、家に入る事ができず結婚を諦めたんですが、いい相方ができたら結婚したいなと思います。子供は望んでいないので、その程度のものです。世間の結婚に対する認識もこれくらいフレキシブルになればなーと思っています。


黒木:これは残念な返答になるかもしれません。多様であれとは思っているのですが、僕の場合は古いやり方の方が体質的に合ってる気がします。hima://と結婚できなかったのもそういう体質が一因ではありますね。いろんな形があっていいと思ってますので古いやり方を“当たり前”とは全く考えてないですけど。


—恋愛感情ではなくパートナーとして契約結婚をし、性的にも互いを束縛しないというカップルがメディアなどでも取り上げられています。恋愛感情を優先としない交際、結婚のかたちをどう思いますか? 


hima:もうね、みんなもっと勝手にしろと思います! 男女問わず自由にしろと。ただ、親の勝手で生まれてくる子供に特殊な環境を強いたり、その責任を負担させるのは違うかな~と思うので、そのへんの折り合いがつけばもっとみんな生きやすくなるのかな、と。産むのが得意な人もいるし育てるのが得意な人もいるし。こういう合理主義みたいな考えは、無感情で血が通ってないように感じる方もいるかもしれないですね。


黒木:そういうパートナーシップのかたちをとって幸せならいいと思います。恋愛感情の度合いは人によって違うにしろ持っているものなので、優先しないことによってストレスたまらないかなーとは思いますが。





「これから別れるカップルの皆さん、いかがですか? 」


—「結婚しない式」をするにあたり、振り返ってみて今までの交際は自分たちにとって必要だったと思いますか? 


hima:結婚なんてしたくない。とずっと言ってた人生から、この人といつか結婚したい、という心持ちにまで変えてくれたのは黒木さんのおかげで、誰でもいいなんて事はなく、本当に恋人以上のものをもらい続けてきましたし…。黒木麓がいなければ、今の私はいないです。


黒木:さっきも言ったように僕の場合は古いタイプの人間なのでhima://と出会ってなかったら地元で昔ながらの家庭を築いていたかもしれません。それはそれでとても幸せなことかもしれませんが、hima://のおかげでまあスリリングな12年でしたよ。ここまでの人生に悔いなしです。


—実際に「結婚しない式」を終えて、どうでしたか? 感想を聞かせてください。


hima:疲れました! 泣き疲れたし、準備で疲れたし、バンドで疲れたし。で、最後はバンドメンバーとしての打ち上げになっててよかったです。結婚式は2度とやりたくないと言ってる友人たちの気持ちがわかって満足です。


黒木:これから別れるカップルの皆さん、「結婚しない式」いかがですか? 何日もくよくよするより1日でパーっとイベントやってたくさん泣いて次の日新しい朝を迎えられるのでおすすめです。


—「結婚しない式」のここが盛り上がったというハイライトを教えてください。


黒木:僕のスピーチで泣いてる人がちらほらいましたね。僕がいちばん泣いていたんですが…。恋人関係でなくなっても決して絆を諦めませんという内容でした。あと本当は指輪ではなくメリケンサックを交換するはずだったのですが、司会の方が「法にふれてしまうため指輪の交換になります」と言ったときは笑いがおきましたね。


—メリケンサック交換の話、個人的に楽しみだったんですがちゃんと指輪だったんですね(笑)。式ではご両親や友人はどんな様子でしたか? どんな言葉をもらいましたか? 


hima:「おめでとうなのかな…?」といってた子が「おめでとう! 」と言ってくれて嬉しかったです。わたしたちの気持ちや意図が伝わったんですね。


黒木:素晴らしかったと言っていただけました。やってよかったなと思います。


—では最後に、お互いに向けて一言お願いします。


hima:おい。おい、おい…… おいおいおい!! 今さら、愛だ希望だっていうセリフでこの状況がどうこうなると思ってるのか? アァ!?  ハハッ! 俺が何もかもぶった斬ってやるよ!!!! 


黒木:好きなだけ言葉を振り回しているがいいわ、僕の心は切れないから。


hima:えぇ~めんどくさいかもだけどまたいつかよろしく。


黒木:どうせ地球は丸いんだ、そのうちどこかで会えるさ


hima:あばよ…! 







このインタビューの一連のやりとりを見ていただければ分かる通り、とてもとても愛らしい2人であり、ここまでさまざまな経験を経て、恋愛感情を超越したもっと大きなスケールの愛情と懐の深さを感じさせてくれる。


僕は他の仕事で実際に新婚のカップルのインタビューを多く行っている。挙式後、「結婚式」も「結婚しない式」も“やって良かった”という似通った感想を当事者が持っていることに驚いている。これは発見である。



カップルの新しい選択肢


芸能の世界では、ある程度の実績と年齢を重ねた独身の著名人でなければ恋愛関係をオープンにすることはないし、アイドルは「恋愛禁止」の大号令のもとに処女性を求められる。


“求められているイメージ”を崩さないということが前提で、祝われることが許された人々のみ結婚や妊娠を公に報告できるというのが芸能界の通例である。とイチ視聴者として僕は認識している(ときにはそんなルールを一切無視した、豪傑が現れたりするがここ数年はそういう芸能人、見かけないよな)。


そういった前時代的な風潮がマスメディアに蔓延している状況にある中で、つい先日、ラッパーのKOWICHI(コウイチ)とCREAMのシンガー/ラッパーのMINAMI(ミナミ)が交際関係をSNSで発表した。という記事を書いたが、色恋沙汰はなにかと隠したがる気質の、日本におけるエンターテイメントの世界では珍しいケースだ。


そして今回、hima://KAWAGOEと黒木麓は“結婚しない”ことを公にし、式まで行ったのである。この2つのカップルの事例は対極ではなく表裏一体と僕は考える。一般的な社会のスキームにとらわれることなく、それぞれの愛情のかたちをアウトプットしているからだ。


彼ら、彼女らのようなアーティストやメディアに対して露出している人々の、行動によって恋愛や結婚に対する社会的な風潮はもっと自由なものになっていくひとつの要因となるかもしれない。


とはいえ大袈裟にとらえる必要もない。今回の件から得るべき教訓は、愛のかたちは人の数だけあり、他人が否定することも抑圧することも本来はできないということだ。最後に、「結婚しない式」の誓いの詞でこの記事を締めくくりたい。「結婚しない式」で別れた2人に幸あれ。



誓いの詞


今日というこんな日に 皆様にご出席いただき

我々なりの愛と友情を誓うことができ

これほど嬉しいことはございません

お集まりいただいた皆様には感謝の気持ちでいっぱいです

様々な解釈と 一部の理解を受ける中で

これからは

今日の感激を忘れることなく

2人別々に おのれの腕力で

各自の夢に向かって 全力を尽くし

人間は孤独に生まれ 孤独に死ぬ中で

時に支え合い 時に対立し 時に無関心であることを

ここに誓い申し上げます



hima://KAWAGOE Twitter:https://twitter.com/ekimae

黒木麓 Twitter:https://twitter.com/kuronekoEB3



written byTomohisa“Tomy”Mochizuki


Illust:hima://KAWAGOE



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